愛憎

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ーーー 「佳純…少し落ち着いたら?」 「…お、落ち着いてるよ?」 「さっきからやたら入り口をキョロキョロ見てるよね…入ってきた人が皆ビックリしてるよ」 「…だね。ごめん…」 もうすっかりお馴染みのテグロフの一番奥のテーブル席で、優雅にコーヒーを啜りながら翔介さんが言った もうすぐここに菜穂がやってくる 私はそわそわして仕方がないのに、翔介さんはなんでこんなに落ち着いていられるんだろ… そう思っていると コーヒーがカタカタと震えていた …やっぱり無理してるんだ… そりゃそうだよね… 「緊張してるのバレてるかな」 「う、うん…」 「こんなに緊張してるの、多分人生で初めて」 面と向かって菜穂と話すのは、彼にとって何年振りなんだろうか 「私もいるから…大丈夫だよ!」 「ありがとう。頼むね」 「任せておいて!」 そう言いながらカフェオレを飲む私の手も震えている それを見て彼が少し安心したように笑ってくれた 「いらっしゃいませー」 また入り口が開く ああ…顔を見なくてもあのシルエットだけですぐにわかる …菜穂だ… 菜穂はすぐにこちらに気が付き一直線に歩いてきた 「……お待たせして、ごめんなさい」 「おはよう…菜穂」 「おはよう佳純。おはようございます。鳥谷さん」 穏やかに、静かに菜穂は言い放った 翔介さんはすぐに立ち上がり菜穂の方を向き言った 「…おはようございます。今日はごめんね…こんな機会を設けてもらって…」 「いえ…そんなかしこまらないでください。それに言い出したのは私なんで」 他人行儀な口調で、二人は挨拶を交わした 「と、とりあえず二人とも座ろ!!ね?」 頷きながら、菜穂は私の隣に座った 「何か頼む?」 「佳純、気を遣いすぎだよ。大丈夫だから」 笑いながら菜穂は店員さんを呼びアイスカフェオレを頼んだ 沈黙をかき消すように、翔介さんが切り出した 「風見…まずは、謝らせてほしい」 「本当にごめん…」 鳥谷さんは深々と頭を下げた それは過去に対してなのか、現在進行形に対してなのか 多分どちらの意味も込められてるんだろうな 菜穂は少し押し黙った後、切り出したーー 「…鳥谷さん。私もう全然気にしてませんから」
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