愛憎

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私は電車に乗り病院へ向かう途中 お父さんよりも二人が気がかりだった あの二人…まだ一緒にいるのかな 帰らないのかな… まあ急に帰る私が悪いんだから仕方ないんだけど 仲良くなっちゃったら…嫌だな こんなことを言うとあれだけど 二人は会わせるべきじゃなかったかたも知れない 少しづつ脅かされる 私の居場所ーーー 足場が失われていくような恐怖を感じる 漸く手に入れたと思ったのに… ーーー 「あの、花井和隆の娘なんですが…父がここに運ばれたと聞いて」 「花井さんですね。306号室になります」 「ありがとうございます」 病院に着いた私は足早に父の病室へと急ぐ 四人部屋の中に父の名前を見つけ、私はカーテンをそっと開けた 「お父さん。大丈夫??」 「佳純。きてくれたのか」 良かった…大丈夫そうだ… 「足怪我したって訊いたけど、そんなに悪くは無いの?」 「ん…?ああ……」 濁すようにそう頷くと、お父さんはあえて言葉を紡がなかった 「………お父さん?」 自分の足をジッと見つめ、お父さんはゆっくり口を開いた 「…ちょっともう、現場仕事は無理だろうなぁ」 …え…? 「実はな… 腰から下の感覚がないんだ…」 ……そう聞いた瞬間 私は鈍器で殴られるような衝撃を受け、思わずよろめいた 「…嘘…だよね…?」 お願いだから、嘘でも嘘だと言って欲しい 「背中から落ちたのが不味かった…脊髄を傷付けたみたいでな」 …そんな… 「お父さん!ほんとなの?!嘘って言ってよ!!」 私は脇目も振らずに大きな声でお父さんにしがみ付いた 「…佳純。大丈夫だ。幸い保険は降りるし生活には困らない。仕事も現場は無理だが事務仕事があればそっちで使ってもらうつもりだ」 「でももう…歩けなくなっちゃうんでしょ…?!」 「リハビリ次第で歩けるようになった人もいるんだ、悲観したって仕方ないさ」 あっけらかんと答えたのは、私を悲しませない為だ その笑顔が一段と私の胸を締め付けた
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