起点

1/20

215人が本棚に入れています
本棚に追加
/549ページ

起点

ーーーー 「わかった。何か力になれることがあれば言ってね」 そう言い残し通話を終えた僕は電話をテーブルに置き、重い上着を脱ぎ捨て白いソファーへともたれ掛かった 今日は、自分にとって激動の一日だった まさか彼女と…もう一度ああやって話すことが出来るなんて… だけどそれは思った以上に体力を要したようで、僕はソファーと同化して全く動けなくなっていた ーーもう10年か… 長い年月の間で 僕の中にあるものは目まぐるしく変わってしまっている そして【彼女】の存在もまた 僕を変え得るきっかけになろうとしているーー 天井を見つめながら一人呟いた 「ありがとう…佳純」 決して届ける事のないその言葉は、空気に溶けて消えていった するとまた電話が震えた 携帯を手に取り画面を見てすぐに憂鬱な気持ちになった そこには、一番出たくない人の名前が記されていた 出ないと後々また面倒なので、僕は仕方なく通話ボタンを押した 「…もしもし」 「随分出るまで時間がかかったな」 第一声から既に威圧的なその言葉と声色に、僕はうんざりしながら謝った 「…ごめん。気がつかなかった」 「まあいい。それより以前話していた見合いの話…漸く段取りができた」 「…その話なら断った筈だけど」 「…それはお前に相手がいるなら。という条件だった筈だ」 「…相手ならいるよ」 「………何??」 「前にも言ったじゃないか。親しくしてる彼女がいると」 「ーーお前の嘘は俺には通じんぞ?もし嘘だったら…わかっているのか?」 「……じゃあ紹介するよ」 思わず口に出してしまった 「…面白い。ボロが出ないといいがな。仮にそれが本当だとしても…お前に…鳥谷家に相応しい女かどうかは俺が見極める」 「…じゃあまた日が決まれば連絡する」 「ダメだ。日時は3日後だ」 「向こうにも都合があるだろうし。3日後は無理だ」 「好き合ってるなら少しの時間くらい作れるだろう。そんな融通も利かないような女なのか?」 我慢も限界に差し掛かった僕は強く言い放った 「…わかった。じゃあ3日後でいい」 もう売り言葉に買い言葉だった 「…フッ、楽しみにしているぞ。翔介」 「ちゃんと見合いの話は断っててくれよ…」 「…会ってからだ」 そう言って一方的に電話を切った 僕はテーブルに電話を放り投げ呟く 「… クソ兄貴ーーー」
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加