起点

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「…今から電話して来て?何かあるかもだし。後で教えて?」 「え、でも…」 「私先に病室に戻ってるからさ。ね?」 「…わかった。いってくるね」 病院を後にする菜穂の背中を見送りながら、私はため息をついた 「…翔介さん…」 今は忘れたいのに…忘れようとしてるのに 心の中に巣食う彼が、私の中に否が応でも姿を現す 「なんか病室戻りたく無いなぁ」 お父さんに何か訊かれるのが…気まずいな そうも言ってられないので私は病室に戻り再びカーテンを開けた 「おお。あれ?菜穂ちゃんは?」 「ちょっと電話してくるって。お母さんは?」 「母さんなら着替えを取りに帰った。後でまた来るってさ」 「ふーん…」 「あ、これ飲んでね」 「おお。悪いな」 …何か気まずい 「あのさ」 「結婚するのか?」 「えっ?」 私が話しだすと同時に、お父さんが尋ねて来た 「えと…私はそのつもり」 私は、だけど… それ以上は今は何も言えない 「お前ももう21だもんなあ…仕方ないよな」 「…まだわからないけどね」 「…ちゃんとしてる人なら父さんは何も言わん。佳純の好きにしたらいい」 ちゃんとしてる人か… それはどうなんだろうーー 一応自立はして生計もしっかり立ててるし ある一点だけを除けば完璧なんだけどなーー 「うん。ありがとう…」 「ちゃんとしてなかったら、ぶん殴るけどな」 …怖いよ 心配してくれてるお父さんの為にも 私は彼の心が欲しいと…そう切に願う
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