起点

5/20

215人が本棚に入れています
本棚に追加
/549ページ
ーーーー 「…もしもし」 暫く鳴ったコール音の後、電話口から返事が聞こえた 「もしもし…急に何なんですか?連絡する相手間違えてません?」 彼は少し口籠もり、返した 「ごめん。本当は佳純に電話するべきなんだろうけど、今は大変だと思って…先に風見に相談したくて」 「相談…?」 「うん。実は……兄が佳純に会わせろって言って来てるんだ」 「会えば良くないですか?」 「それが、日取りを勝手に決めてしまって…明後日だって」 「明後日!?何でそんな急なんですか」 「昔から強引な兄なんだよ。自分本意な性格でね」 「佳純も困ると思いますよ。そんな急だと」 「…そうだよね」 「とりあえず、私の口から言ってみましょうか?」 「…お願い出来るかな」 「…了解です。それから、余り電話はしないで下さい…佳純が誤解しちゃうし」 「…わかった。ごめん」 「いえ…」 電話を切ると、安堵か懸念かも分からない溜息が漏れた まだ…慣れてないのかな 彼と話す時、少し緊張する自分がいる 「…慣れなきゃ」 ーーー 病室に戻ると、おじさんと佳純が楽しそうに話していた 私はカーテンを開けそーっと後ろに立ち二人の話に耳を傾けていた 「生まれてこの方佳純の手料理なんて食べた事ないぞ」 「私随分上手くなったんだから!そんなに言うなら明後日持ってくるよ!何がいい?」 「うーん…悩むな。じゃあ、ビーフシチューだな」 「ビーフシチューか…やった事ないなぁ」 「無理しなくていいぞ。期待してないから」 「もう!絶対ギャフンと言わせてやるんだから!」 「クックックッ!まあ、よろしく頼むぞ!」 おじさんの顔は、とても嬉しそうだった 「あっ、菜穂」 佳純が私に気が付き、振り返った 「菜穂ちゃん、明後日佳純がビーフシチュー作って来てくれるらしいんだよ。一度も作った事のないビーフシチューを」 「やっぱり馬鹿にしてるじゃない!」 「してないしてない」 「そ、そうなんですか…」 私は苦笑いをしながら佳純を見た 佳純は私に何かを訊きたそうな顔をしていたけど何も訊かずにおじさんと話を続けた
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加