起点

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ーーー翌日 仕事を終えた私は定時で上がりテグロフへと向かう 店には既に鳥谷さんが待機していた 「お待たせしてすみません」 「いやこちらこそごめん。仕事終わりに大変だったろう」 「大丈夫ですよ」 「良かった。何飲む?」 「じゃアイスコーヒーで」 彼は頷き店員さんにアイスコーヒーを頼んでくれた 「…もう来られますかね?」 約束の時間まではあと数分ある 「どうだろう…」 「あっ…来た」 店のドアが開くと、スーツ姿の男性が入ってきた 私はすぐに分かった 放たれている圧倒的な存在感 鳥谷さんとどことなく似ているけど、全く異質の出来る男オーラのようなものを漂わせている その人は鋭い目付きでこちらを見ながら店員さんと会話をしていた そしてそのままこちらに向かって一直線に歩いて来た 「待たせたか」 少し低い、だけどよく通る声 「いや…今来たところだよ」 「そうか。良かった」 そしてその人は私を真っ直ぐ見て言った 「はじめまして。翔介の兄の竣介といいます。今日はわざわざお呼びして申し訳ない」 「はじめまして…風見菜穂といいます」 「よろしくお願いします」 真っ直ぐな視線の中に潜む、品定めの様な眼 思わずたじろいでしまいそうな…威圧感 その圧に負けないように先手を打つ 「あの!先に申し上げておきますが、私は鳥谷さんの彼女ではありません」 その言葉を聞き、お兄さんの眉がピクリと動いた 「…どういう事かな」 空気が一変する はっきりとわかる苛立ちを込めた質問に、私は丁寧に返した 「本当は今日、私の友人が来るはずだったのですが…彼女は今とても多忙な身でして…時間を作ることが出来ません」 「なので私が代わりにお兄さんに謝りに来ました」 「…ハァ、そうか」 呆れた様な溜息を漏らし、こちらを見つめる 「貴方とそのご友人の関係性は?」 「……高校時代からの親友で、今の会社の同僚です」 「…同僚。仕事には来ているのかな?」 明らかに答えを誘導するかの様な問いだが、私は包み隠さず話す事にした 多分この人に半端な嘘は通じない…そんな気がしたからだ 「仕事には来ていますが、定時になるといの一番に帰っていきます。それというのも、現在彼女のお父さんが事故に遭われて彼女が毎日看病している状態なんです」 「何故その子が?お袋さんはいないのかな。他の兄弟姉妹は?」 「お母さんはいますが、一人では大変なので彼女が共に手助けしている状況です」 「…なるほど」 「あの…兄さん…とりあえず、座ったら?」 会話する私達を、店員さんが後ろでお冷やとおしぼりをお盆に乗せジッと待っていた 「失礼したね」 そう言ってお兄さんは席についた
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