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テグロフの前、凛と立つ彼がいる 私は慌てて駆け寄り、つい足がもつれ倒れそうになった 「あっ!」 すると突然彼の腕が前方に飛び込んで来て、私を支えた 「ギリギリセーフ。だね」 「あ…りがとうございます」 一瞬にして頬は林檎のように紅潮し、声が詰まる 「はは、いきなりでごめんね。迷惑じゃなかった?」 またずるい質問だ… 「そんなわけないじゃないですか…」 少しムスッとしながら言う私に、彼は優しく笑って返した 「なら良かった。和食でいいかな?」 ご飯なんて正直なんでもいい コンビニ弁当だって構わない ただ一緒にいられるなら… 「はい!」 「行こうか」 彼は私に歩幅を合わせ、ゆっくりと歩いてくれた 仲良く並んで歩いている私達は傍から見れば恋人同士に見えるかな だけど、こんな歪んだ関係は滅多にない 「お腹空いてる?」 「えっ?はい!」 「良かった」 何気ないやりとりなのに胸が痛むのは何故だろう 彼の笑顔を見る度に、私の心は軋んでいく 「花井さんって、学生の時どんな子だったの?」 「学生の時…ですか?」 私は…本当に平凡な、どこにでもいるような女の子だった気がする 好きなものも嫌いなものも特になく 趣味も流行りのものばかりで、特技らしい特技はないし 「面白味のない人間でしたね…」 少し笑いを誘うように言ったのだけど 彼はクスリともせずに答えた 「面白味がないという点では、僕を超える人間はそういないよ」 「…鳥谷さんが?」
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