夜鷹の蕎麦屋

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サヨは、畳に転がった髑髏を両手で愛しげに拾いあげた。 「この嫁はなってないねぇ・・・人の大事な人を放りやがった」 権蔵は、ワナワナと震えながら言った。 「お、お前がそんなもの、持ってくるからだろっ」 「そんなもの?そんなものだって?」 サヨはそう言って、障子の外へ出て行った。 そして、戻ってきた時には手に長い枝を尖らせた槍を数本持っていた。 「それは・・・・」 「ああ、そうさ。見覚えがあるだろ?あの人の形見だ。もしくは・・・敵討ちの品だ」 サヨは三四郎が削っていた木の枝を右へ左へと振り回しながら、ジリジリと権蔵に迫って行った。 権蔵の手に握られた刀は、夕日に反射して血がついてもいないのに、刃先が真っ赤だった。 サヨは、御膳の前で気を失ったまま、倒れている花嫁のお腹に槍を立てて言った。 「聞いてるよ。やや子がいるんだって?」 権蔵の顔色が変わった。 「おい、おい、やめろ!」 サヨは、尖った槍をゆっくりと、膨らんだ白無垢にグリグリと押しあてる。 「や、やめてくれ!な、なんだ、銭か?銭がいるのか?」 サヨは、尚も槍を中に押し続ける。 「銭?もうすぐ死んでいくのに銭なんかいるもんか」 その時、痛みに花嫁が目を覚ました。 自分のお腹に刺さる槍を見て、叫んだ。 「ぎゃぁぁぁっ!なにをっ、お前さんっ、助けておくれっ!!」 権蔵は、刀をサヨに向けて、躙り寄る。 「は、離せ」 サヨは、薄笑いを浮かべて言った。 「あの人も、命乞いをしたろ?でも奪われたんだ。命っていうのは、長いとか短いとか関係ないのさ、ただ、そこにあるから尊いんだよ。今、この腹にある命も、ただ、ここにあるから尊いのさ」 言うと、サヨは両手で一気に槍を腹に突き刺した。 この世のものとは思えない、獣のような呻き声をあげて、花嫁はのたうち回る。 真っ白だった着物が、下から上に真っ赤に染め上がった。 「ほうら、自分の花嫁をよく見ろ。紅色がよく似合う。なんと艶やかななぁ」 権蔵は刀を持ったまま、後ずさりした。 サヨは、権蔵の正面に立った。 流れる血が、畳の上を波のように流れる。 権蔵とサヨの足袋が、血を踏んで、ヌルヌルと滑る。 「いざ、三四郎の怨みはらさせてもらうぞ!」 サヨは、権蔵 目掛けて槍を向け走った。
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