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美術室の絵の具なのか何なのか分からないあの独特の香りを嗅いでいる。臭いと言うよりも、変わった匂いというのが正しいのだろうか。とにかく慣れないこの臭いは、まさに美術室には欠かせない存在なのは確かである。
「本当にいいのか?」
目の前の先生の真剣な眼差しを見ていると、どうしてもいつものひょうきんな様子との差が激しくて、どうも吹き出しそうになる。
「当たり前じゃないですか」
ブレザーの袖から出ている白シャツを隠すように内側にしまう。
「お前の学力ならもっと上の高校行けただろ」
どこのベタドラマだと突っ込みたいのを抑えつつ、先生が話をすすめるのをただただ聞いている。だがそれも上手く聞き流していて、いつの間にか話は終わっていた。退室しようとする俺。木の椅子に座り続ける先生が最後に俺のことを呼び止めた。
「まて、なぜその高校にこだわるんだ?」
またこの質問か、と心のなかでため息をつき、一拍空けてそれに答える。
「野球部ができるからです」
それ以上も以下も必要ない。俺の中で“新しく野球部ができる”という情報は、魅力以外のなんでもなかった。
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