栄冠はいつか輝く

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 地に足つかないまま投げた第一球は、大きく上に外れた。初めての練習試合とあってやはり練習とは違う緊張感があるが、中学の頃も同じような経験をしているので別に特別気負うことはない。大きく深呼吸して第二球。今度はど真ん中だが空振りしてくれてストライク。落ち着けばなんとかなる。二十球程度で三人をそれぞれ三振・三振・三ゴロにしとめ、一回は無安打に押さえ込んだ。  一番の不安要素は打撃のほうだった。硬球の打ち方にまだ慣れていないうちのチーム。一番から三番まで空振りやファウルの嵐で簡単に凡退させられてしまった。  意外とはやい凡退に、焦ってマウンドに戻る俺。呼吸を整え、投球練習をはじめる。まだ地面からの熱気はそう強くはないが、このまま試合が続いていく中で必ず後半強くなるだろう。そのときまで力をセーブしておきたい。そう思ってしまったのがあとあと響くのは、まだこの時は気づいていなかった。   4番から始まる相手打線。やはりこちらのチームとは体格が全然違う。がっしりというか少し太って見えるほど分厚い体つき。ヘタしたら簡単に外野まで飛ばされてしまいそうだ。  予想は大きく外れなかった。どんどん外野に飛ばされる打球。だが必死に食らいつくチームメイトに助けられ、またも無失点。  こちらの攻撃は、四番の俺からだった。練習試合初打席。そんなに緊張はしなかったが、投球のことばかり考えてしまって打席に集中できず、簡単に内野ゴロに仕留められてしまった。  なかなか思うように気持ちが乗ってこない。こういうものなのだろうが、練習のような全力を出したくても出し切れないもどかしさが胸の奥にどんどん積もり積もっていく。だが結果がついてくるのもおかしな話で、調子が悪いなりに四回途中まで未だに無失点が続いている。なんだかモヤモヤしたまま二回目の打席に立った。  一度相手投手の球を見ているということで、今度はタイミングもさっきより上手くとれる。勝手に体が反応した三球目、内角低めのストレート。すくい上げるように打ち返すと、打球は右翼手の頭上を大きく超え、ワンバウンドで外野のネットを超えた。エンタイトルツーベース。俺の初ヒットはチームの初ヒットでもあった。投手の投げた硬球を打ち返すとこんなにも爽快なのかと感心してしまうほどの感触。たまらない。いっきにモヤモヤが晴れたのか、五回の投球は絶好調。三人全員から三振を奪ってマウンドを降りた。  今日は俺と豊田で半分ずつ投げる予定だったため、六回からは豊田の投球を外野から眺める。その豊田だが、ブルペンで隣同士投げ合っているとき、目につくのはいつも変化球の曲がりだった。豊田の変化球はスライダー、カーブ、シンカー、どれをとっても鋭く、今日もそれを試合の中で見られると思うと純粋に野球少年に戻ったような気分だ。  と、期待していたのだがこれこそ予想が大きく外れた。大きな当たりは打たれないが、不運にも鋭いゴロが内野手のグラブをかすめることもなく外野に流れてくる。六回七回八回九回とどれも連打で崩れた。どれだけ打たれても今日は俺と豊田が投げると決められていたため、豊田は歯を食いしばって投げ続けていた。終わってみれば十点差の大敗。俺らの初陣はほろ苦いものとなった。
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