生きる意味

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生きる意味

中学生になった私は相変わらず忙しかった。 毎日の部活でお風呂も入りたくないくらいの疲労。 本当だったら友達はお風呂に入ったらご飯が待っている。 お腹すいた!! と帰って学校での愚痴の1つも話すかもしれない。 私にはそんな時間はなかった。 洗い物に洗濯、食事の準備。 ホッと一息着いた頃にはもうヘトヘトで勉強しようなんて気持ちは微塵も湧いてこなかった。 布団に寝そべると(。。ふぅ。。。)とため息が出る。 今日がやっと終わった。 また明日は朝起きて学校へ行く。 退屈な授業を我慢すればまた大好きなテニスが出来る。 明日も、明後日も私の人生のループだ。 ただ毎日通る踏切が本当に憂鬱だった。 死んでしまいたい衝動と戦わなくてはいけない。 もちろん死ぬ勇気なんてなかったと思う。 わかってはいたけど、本当に地獄だった。 電車の車輪を眺めていると。。。 吸い込まれる様な不思議な感覚に襲われた。 遮断機ギリギリまでゆっくり歩いて近づいた事もあった。 あともう一歩。。。。 気付くと電車の騒音はなくなり、人々が素知らぬ顔で行き違う。 この人達は今生きていて楽しいのかな。 漠然とそんな事を思いながらレールの上をとぼとぼ歩くのだ。 こんな事を言うと「頑張れ!」とか「いい事あるよ!」とか「命を大事にしないと!」とか。。。 なんとも耳触りの悪い言葉が並ぶ。 少なくても、中学生同士がまともに人の心に触れられる程の語彙力もある訳もない。 だから言わない。 大人も決まって同じ事を言う。 「頑張ってるね。」 「偉いね。」 「胸を張っていいんだよ。」 私は偉いのか? 何を頑張っている? 心が空っぽの私の何に胸を張れるだろう。 勝手な事ばっかり言うな。 人は本当はとても冷たい生き物だ。 自分が1番かわいい。 それが他人の事となれば尚更、本当はどうでもいい事だ。 不貞腐れている訳ではない。 本当にそう思っていた。 それでも決まって私はニッコリ笑って言う。 「ありがとう!」 「いつも笑顔ですごいね!」 「そうかなぁ?ありがとう!」 この会話も飽きた。 部活は土日も休みがなかった。 手作り弁当を持ってきた友人らとお昼を食べてまた練習に戻る。 私は毎週コンビニに寄り、おにぎり二つにチョコチップパンを買ってから学校へ行く。 別にお腹が満たされればいい。 だけどやっぱり。。。 友達のかわいいお弁当が食べてみたかった。 俵型に可愛く握られたおにぎりが小さなお弁当箱に並び、鮮やかな黄色の卵焼きの横に、唐揚げがひょこっと添えてある。 色鮮やかでかわいくて。。。 そしてとても美味しそうだった。 他愛もないおしゃべりをしている友人を見ていると、そのお弁当に特別感動している訳でもなさそうだ。 そうだった。。。 あの子の当たり前を私はもっていないんだった。 そしてそれはこれからも味わう事はない。 「おいしそうなお弁当だね!」 そう言うと「毎日同じようなお弁当で飽きるよぉ〜。何なら私はそっちが食べたい!」 1度だけ友達とお昼を交換した事があった。 涙が出そうだった。 きっとお母さんという人が愛情込めて作ったものだと感じられたから。。。 何より本当においしかった。 コンビニのおにぎりにこんな感情を抱くことはない。 レジで並んだあの人もこの同じ味の同じ形のおにぎりを食べている。 手作り弁当はこんなにも暖かい食べ物なのだと体に染み渡ってくる。 染み渡るとまた涙が溢れてくる。 「すごくおいしいね!!」 友達も喜んでいた。 「お母さんにもうひとつお弁当作ってもらえるように頼んでみようか?」 「いや。。。大丈夫!二つも大変だし!」 食べたかった。 来週も再来週も。 だけど、来週も再来週も食べてしまったら。。。 食べられなくなった時が辛い気がした。 当たり前にあるものは、ある日突然なくなることがある。 私は知っていた。 後でなくなるぐらいなら、最初からなくていい。 その方が。。幸せだ。 「ない」自分が習慣になれば日常をやり過ごす事くらいはできる。 だけど「ある」から「ない」に変わる時の流れはとてつもない痛みを伴う。 それでも人間は欲深い生き物で。。 諦めたつもりなのに。。 無性に欲しくなる。 「ない」とわかっているのに願ってしまう。 そんな自分の気持ちに気付く度に、ますます自分が嫌いになる。 環境を憎んでも仕方ないから 変わりに自分を憎みはじめる。 この世に存在しても、していなくてもどちらでもいい。 だって私は、母に捨てられた時に1度死んでいる。 肉体だけをまとって日々呼吸をしているだけの毎日だ。 息を吸って、吐いて。 それを24時間365日。 ただそれだけだ。 私は交通ルールも守らなくなっていた。 いっそ不慮な事で肉体を脱ぎ捨てたかった。 ニュースで不慮の事故が報道されると「。。。私が変わってあげたかったな。。。」 そんな感情が渦巻いていた。 この頃からだったと思う。 (私はなんで産まれてきたんだろう。。。) そして生きる意味を探すようになった。 それが見つからなければ心は死んだままこの先も生き続けなくてはいけないからだ。 そんな生き地獄到は底耐えられそうになかった。 (明日ももしかしたら呼吸をしなくてはいけないとしたら。なんの為に?誰の為に?) この後長い時間、生きる意味を探す旅がこの頃から始まった様な気がする。
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