信じられ無い夜

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沙羅の動揺は、浜野にも容易に分かる、しばらく沈黙した後で 二人の身元確認と、身柄を引き取りに来て欲しいと言い 二人が運び込まれた病院の名前や、住所を伝えた。 何度も聞き直し、やっとメモを取った沙羅は それでも、そちらへ行く列車はもう無いので、明日になると、答えられた。 その病院へは、どう行けば良いのかとも聞いた。 浜野は、降りる駅と、病院までは、タクシーが良いだろうと教え 重い知らせを伝え終えて、ほっとしたのか「お気をつけておいで下さい」 と、最後は優しく、労わるような口調で電話を切った。 通話終わりのボタンを押そうとしたが、沙羅の手は冷たく 指が震えて、なかなか押せない。 こう言うの、テレビドラマでよく見るけど、本当にこうなるんだ こんな重大な時に、つまらない事を思い出す自分が、腹立たしい。 震えているのは、手だけでは無い、足も震えて上手く歩けず やっとテレビの下の引き出しから、九州の地図と、列車の時刻表を取り出す テーブルに広げた地図の、福岡駅と中央病院を、丸で囲んだが 酷く歪んだ丸になった。 時刻表を見る、朝一番の列車の時間を確かめ、この体だ 早めに家を出なくてはならない、けれど、あの駅の階段を どうやって登れば良いのだろう、玄関の小さな二段でさえ 手すりに摑まらないと登れないのに、沙羅はぎゅっと唇を噛んだ。 ええい、足なんか折れたって良い、階段は這って登ろう、動けなくなったら 恥も外聞も無く助けを求めて、どうでも列車に押し込んで貰おう。 何としても行かねば、あの子たちが待っている、行ってやらなくっちゃ 行って、この目で、本当かどうか確かめなくっちゃ。 本当なら、、、沙羅はぶるっと身震いした。 本当なら、あの二人が居ないこの世に、私が居る意味は無い。 だけど、葬儀だけは済ませてやらなくっちゃ、逝く所にも逝けない。 そうだよ、今は心を強く持とう、泣くのは後で良い、沙羅は心を決めた。 明日は早いから、もう寝た方が良い、けれど、眠れないのは分かっていた 沙羅は、カーテンを開け、アパートの小さなテラスに出た。 空には、丸い月が輝き、昼間のように明るい。 私が、絶望のぞん底に居ると言うのに、なんて綺麗な夜なの 月を見ながら、沙羅は思った。 私の人生って、辛い事が他の人より多かった、だけど 一度も、神様を恨んだ事は無いわ、でも、今回は、あまりにも酷い 私の大事な宝物を、全部奪ってしまうなんて、何で私じゃ無くて桜なの あの子は、まだ18歳なのに、神様は、私の事そんなに嫌いなの? 私だって、たった今、神様の事、大っ嫌いになったわ。 そう思った時、突然、沙羅の目の前が、真っ黒な物で覆われた。
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