信じられ無い夜

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動くたびに、羽根の擦れる音がするし、全くトーンの違う三匹の声 体から漂う、ハーブの様な不思議な香り。 こんなに、はっきりくっきりした夢は無い、これって本当の事? 半信半疑の沙羅に、王は言った。 「私の子供を、貴方様の身体の中で、50年間、育てて欲しい、つまり 王子の仮親様になって欲しいのです」「ええっ」とんでも無い願いだった。 沙羅は、慌てて顔の前で手を振った。 「駄目駄目、それは無理よ、この私の身体を見て、もう68歳なのよ 50年どころか、1年でさえ」沙羅の言葉が終らないうちに 白い悪魔、いやホーリックが、右手を上下に振った。 一瞬、沙羅の身体を薄い緑色の、オーラのような光が包んで消えた。 「さぁ、その身体なら、50年はおろか、100年でも大丈夫で御座います」 そう言うと、狭いアパートの部屋を、なるべく広く見せる為に 全面鏡張りになっている、押し入れの引き戸を指差した。 眼鏡も掛けていないのに、急に視界が鮮明になり、体中の痛みが消え 軽く感じるのを、訝しく思いながら鏡を見た沙羅は 「うわぁっ」さすがに大きな声をあげた。 そこに映っていたのは、艶やかな黒い髪、皺ひとつないすべすべの肌 17歳か18歳の頃の、沙羅が居た。 「これって、、」ホーリックの方を振り返ると 「この星の人々は、我々のこの能力を、魔法とか魔術とか言うそうですね」 明かに、笑っている。 何故とか、どうしてとか思う前に、行けるっ、この体なら菫達の所へ 楽々と行ける、その思いだけが渦巻いた。 今の沙羅の願いは、たった一つ、二人の元へ、早く行きたい、それだけだ。 それから先は、何がどうなっても構わない。 「分かった、私、仮親様とやらになるわ」「有難う御座います」 三匹は、それはそれは嬉しそうな顔で、お礼を言った。 「その子供って、お腹の仲でなきゃ育たないの?」 沙羅の質問に、ホーリックが答える「我々の子供は、産まれてより50年は 非常にデリケートで、決まった生物のお腹の中でしか、育ちません カディアでは、普通は、妻が産んだ子供を、夫がお腹の中で育てますが 王の子供だけは、魔法を使わぬ地に育った者に、育てて頂く と言う、決まりになっております」「何故?」 「魔法が、子供に良く無い影響を与えるからです」「王の子供だけ?」 「はい、色々な理由が有りますが、まず、健康な体に育たないと 王の激務は、務まりません」「ふ~ん、で、子供を入れた私のお腹は どうなるの?」「何ら変わる事は有りません、お腹が重くなったり 大きくなったり、痛くなる等、一切ありません、今まで道理の生活を して頂くだけです」「それは、有り難いわね」
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