信じられ無い夜

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卵に、ピキピキとひびが入る。 それを両手に持ち、王は、沙羅のお腹の上で、そっと割った。 卵の中からは、王の身体の色と同じ色の、煙の様な霧のような物が出て来た 王は、そのモヤモヤしている霧のような物を、両手で包みこむようにし そっと、沙羅のお腹に近づけた。 ホーリックが、素早く小さな瓶を取り出し蓋を開けると 中のジェル状の物を指に取り、沙羅のお臍に塗った。 霧は、王の手で押されるままに、するすると、お臍から 沙羅のお腹の中へ入って行った。 王は、ホーリックが差し出す小瓶の中身を指に取り、お臍に塗ると 暫く、お腹に耳を当てていたが、にっこり笑うと、身を起こし 「どうやら、上手く収まった様だ」と言った。 これで終わりらしい、儀式と言うから、もっと仰々しい物を 想像していた沙羅は、あまりにもあっけない事に、拍子抜けしたが 確かに、モヤモヤとした霧のような物が、お腹に入るのを見たのに 沙羅のお腹には、何の違和感も無かった。 「おめでとうございます」たったそれだけなのに、余程嬉しかったのか ホーリックは、涙を隠すために、目をぱちぱちさせた。 いつの間にか、ギリーも部屋に入って来て「おめでとうございます」と 膝をつき、王に頭を下げた、ギリーの涙は目に留まらず、床の上にこぼれた 「うむ」王の目も、潤んでいた。 沙羅は、身繕いをして身体を起こした。 ホーリックが言う「これで仮親様の儀式は、滞りなく終わりました。 これより後、50年、大変で御座いましょうが、どうか頑張って下さいませ」 三匹は、膝をついたまま、声を揃えて「よろしくお願い致します」と 深く頭を下げた「はい、頑張ります」沙羅はそう答えるしか無かった。 「さて、もう帰らねばならぬ」王はそう言って、テラスに出た。 沙羅も、自然に後に付いて出る、ギリーとホーリックは 沙羅の両横で、膝をついた、王は、沙羅の手を取り 「仮親様、この子は、我らの最後の希望、何とぞよろしくお願い致します」 と言った、最後の?何か深い訳が有りそうな、その顔に 自分の子供を、自分で育てられない悲しみの様な物を感じた沙羅は なぜか「大丈夫、きっと元気な子に育てるわ」と、言ってしまった。 王は、満足そうな顔になり、もう一度「お願いします」と頭を下げ 「ギリー、ホーリック、仮親様をしっかり守ってくれよ」と言った。 「ははっ、この身に代えましても、必ずお守りいたします」 二匹は、声を揃えて、そう言った。 ええっ、この二匹、私の所に残るの? 沙羅の思いも知らず「では、しばしの別れだ、さらば」 王は、あっという間に、夜の空に消えた。
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