つかの間の睦み合い

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「え? 季忠殿の(ふみ)には、『お体の弱い楓殿が元気になってくれることを願い、信長様がこの鳥を贈るようにお命じになりました』と書いてありましたから。鳥肉を食べて精力をつけろ、という意味ですよね?」  楓は黒鶫の羹を美味しそうに吸いながら、そう答える。どうやら、季忠の言葉足らずな手紙のせいでとんでもない誤解が生じてしまったらしい。 「信長殿が来てくださった時に一緒に食べようと思って、ずっと調理せずに待っていたのですよ。お味を気に入ってもらえて、嬉しいです」  ニッコリ、と楓は幸せそうに微笑む。  楓が満足して喜んでいるのに、「違う、そうじゃない」と怒ることもできない。 「そ……そうだな。俺も黒鶫の羹を楓と一緒に食べられて幸せだ。……ところで、黒鶫はどんなふうに鳴いていた?」  黒鶫の鳴き声を聞くのを楽しみにしていた信長は、未練がましくそうたずねた。楓は(あご)に指を添えながら「ええとぉ~……」と思い出そうとする。 「いちげき、にゅうこーん(一撃入魂)? でしたっけ?」 「それは季忠が戦闘中に気合を入れる時の雄叫び声だ。黒鶫が人の声真似をするとは聞いていないぞ」 「でも、そんな感じで(さえず)っていましたよ? 季忠殿の屋敷に長らくいたから、薙刀の稽古をしている季忠殿の声を鳥の仲間の声だと勘違いしたのではありませんか?」 「そんな雄叫び声をあげる鳥がいてたまるかよ……」  どうせ「食用の鳥」と思っていたからろくに鳴き声も聞いていなかったのだろうなぁ、と信長は内心ブツブツ呟きながら、黒鶫の羹を完食した。 (大切な相手に大事な贈り物をする時は、他人任せにするべきではないな……)  はるか後年に武田信玄が信長からの贈り物の心配りの細やかさを家臣たちに大絶賛することになるのだが、この日に得た教訓が活かされていたとかいなかったとか……。 ※しばらくの間、新作執筆のため連載をお休みさせていただきます。(あと、信長関連の史料の読み込みもしないといけないし……(^_^;)) 3月ごろには連載開始したいと思っています。新作執筆で疲弊してぶっ倒れた場合は、再開がちょっと遅くなるかもしれませんが(汗) 今後とも『天の道を翔る』をよろしくお願いいたします!!m(__)m
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