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説得
長谷川さんは穏やかな声で語り始める。
「あなたは石井玲子さんですか?、もしそうであれば頷いてください」
微かに頷いてくれたので「ありがとうございます」お礼を述べる。
「玲子さんは、東日本大震災で残念ながらお亡くなりになられました」
肯定するようにまた頷いてくれたが、悔しさが滲み出るように感じる。
突然見舞われた震災被害による死…。
それを悔やむなと言う方が遥かに難しい。
でも、その苦しみを他の人に与えて良い理屈はまったく無い。
それを如何に納得して貰い、惨劇に引きずり込むのを止めるか…。
その思いを責める事無く理解して、己から気付かせなければ暴走してしまう。
長谷川さんは更に穏やかな声でゆっくり諭すように言葉を紡ぐ。
「玲子さん、悲しみや苦しみを人に与えても、虚しくなるだけでは…」と尋ねると、しばらく間があった後に頷いてくれた。
波長の合う人を引きずり込んだのは、やはり本心では無かったようだ…。
責めないよう、気を使い、言葉を選び「もう何人もの方がお亡くなりになっています。どうぞ、どうか、これ以上はお許しください。心からお願い申し上げます」と、再び深々と頭を下げ懇願する。
しばしの間があったが、黒い靄が徐々に晴れ、白い姿に変わりつつある。
優しく、思いを込めて、私の気持ちを申し上げる。
「石井玲子さん、間々井香取神社へどうぞお越しください。私が心を込めてお見送りさせていただきます」と、今一度深くお辞儀をする。
聡さんもそれに倣い、深々とお辞儀をしながら懇願する。
白い姿となった石井玲子さんが、一礼をして見えなくなった。
願いを受け入れていただけたようだ。
長谷川さんが「ありがとうございます。これから間々井香取神社に向かいます」と御礼の言葉をいただく。
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