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想い
週末家族サービスで遊園地に訪れ、一日たっぷり遊んだ帰りの電車内で、椅子に座り子供を抱えながらうたた寝すると、はっきりした大きな黒い掌が私の身体を掴もうとする。
その時鉄橋を渡るような音が微かに聞こえていた。
うっ!ヤバイ!!黒い手から逃れようとすると、抱えていた子供が身動きして目が覚める。
背中に冷や汗が滲む…。
またあれだっ!?長谷川さんに早く相談しないと…。
翌日仕事の合間の昼食時に、昨日見た夢について長谷川さんに連絡する。
「もしもし秋坂です。昨日子供を連れ遊園地に出掛けた帰りの電車で、うたた寝した時またあれを見ました」と伝えると、「秋坂さんいつ会えますか?」と問われ、「今夜仕事帰りの時間で宜しければ、長谷川さん家に伺わせていただきます」とお願いする。
快諾を得て、午後8時過ぎに玄関のチャイムを鳴らす。
居間へ通され、冷たい麦茶を出してくれた。
「汗ばむ陽気だから外回り大変ですね」と労いの言葉を掛けられる。
すると不安に思う自分の気持ちが、ふっと楽になるように感じた。
昨日見た夢について簡潔に伝えると、「気を楽にして昨日見た夢の状況を可能な限り詳しく話してください」と言われ、記憶のまま順序通り説明。
話終えると考える仕草をされ、しばしの沈黙の後に「少し話が長くなりますが」と前置きをされ頷き返す。
「亡くなられたお母さんはあなたの奥さんにとても感謝しています。こんな息子の嫁になってくれて、孫を連れてよく私に会いに来てくれて嬉しい。だから奥さんが好きな鍋焼うどんを必ず用意してあげたい。泣き止まない赤ちゃんに困る奥さんに頼まれ、孫をおんぶしながらあやすお母さんの喜んだ顔がとても良い。話が前後しますが、あなたが結婚される前に転職され、都内で独り暮らしを始めた息子を優しく世話をする彼女。そう今の奥さんの姿を包み込むように見守るお母さんの思いが伝わって来ます。その頃から仕事も良い流れになっていたのではないですか」と話された。
まるで見ていたような言葉に驚きながらも、胸の奥がほっこり暖まる感じを覚える。
「まさにその通りです。もしかすると霊との対話が出来るのですか」と訪ねる。
「私はこの力を先祖から受け継ぎました。法力や陰陽師のようなものではなく、知りたいことを強く念じると頭の中で映像化され、その思いが伝わって来ます。そして私が思いを込めた言葉には不思議な力が宿り作用してくれます」と説明された。
そこで「私が何故あれを見るのか」訪ねると、「秋坂さんとあれの波長が合ってしまうようで…」と。
「意識がある中で影響を受けると引き込まれてしまうが、あなたのお母さんがそうならないよう守っています。そのお陰で夢の中でしか影響を与えられない」と、補足してくれました。
お母さんに心から感謝。
叶う事なら直接伝えたいと思うが、私にはそんな力はなく、そっと手を合わせ「ありがとう」と囁く。
長谷川さんに「あれの正体と言うのか、存在が何か判明したのですか?」と問うと、「概ね分かりました。あれは不慮の事故で命を落とされた女性で、この地に偶然引き寄せられた浮遊霊です。自分の存在に気付いて欲しく、波長の合う人を見付けると引き込んでしまう」らしい。
まったく迷惑な話で、何とかしないとまたあの惨劇が起きてしまうと、不安に駆られる聡。
その対策を思料中との事。
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