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公園の脇を通りかかった時、
卯木先輩が「おっ……」と小さく声を漏らした。
先輩の視線の先を追うと、広場で小学校低学年くらいの男の子数人がサッカーボールを追いかけている。
コートもゴールもない小さなスペースで、時折ギャハハ!と高い笑い声を上げながら、楽しそうにボールを奪い合っている少年達の姿。
私は、一瞬ドキッとした。
さっきカフェで先輩の過去を聞いてしまったから、何となく……サッカーは先輩にとってタブーな気がして。
頭の中で、必死に別の話題を探そうとする。
けれどそんな私の内心とは裏腹に、
卯木先輩は「元気だなー」と呟いて、その様子を眩しそうに眺めた。
夕日に照らされた先輩の横顔は、懐かしむような穏やかな微笑み。
だけどその表情は、私にはほんの僅かな愁いが混じっているように見えて仕方なかった。
先輩……吹っ切れてるの?それとも……
その時、
男の子達の蹴っていたサッカーボールが、入口近くで佇んでいた私達のすぐそばまで転がってきた。
卯木先輩は、躊躇うことなくアーチ状のポールに手を掛けて、ひらりと乗り越える。
そしてサッカーボールに駆け寄ると、そのまま足で挟み込むようにしてボールを回転させながら拾い上げた。
ポンポンと2回リフティングをして、軽く蹴りあげる。
ボールはふわりと弧を描いて、拾いに来ようとしていた男の子の足元に、見事に着地した。
先輩の流れるような足さばきに、
私は一瞬目を奪われてしまった。
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