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私は、卯木先輩に正直に話した。
さっきのカフェで、たまたま居合わせた先輩の同級生達の会話が聞こえてしまったこと。
私が辿々しくその内容を伝えると、
先輩はため息混じりに「そっか……」と一言呟いてくしゃりと髪を乱した。
「あー……参ったな。
打ち明けようと思ったそばからこんな風に伝わっちゃうなんて、カッコわる」
私は、言葉が見つからなくて無言で首を横に振る。
先輩は、真っ直ぐに私に向き直り、意を決したように口を開いた。
「自分ときちんと向き合って一歩踏み出した響を一番近くで見ていて、俺はこのままじゃダメだって思ったんだ。
だから……聞いて。……引かれても、嫌われても、響には全部知ってほしいから」
そう言うと先輩は、右足首の傷を手のひらで擦る。
「……ここね、試合中にアキレス腱断裂してさ。
まぁ怪我自体は半年もすれば治るんだけど、
俺はその頃右膝にもトラブル抱えてて通院してたから、医者から、相当慎重に時間掛けてリハビリしないと全力でプレーするのは難しいって言われたんだ。
ちょうど中3の冬休みで、ずっと憧れてたインハイ常連の強豪校に推薦も決まってた」
ちらりと私を見た先輩は、
今まで一度も見たことのない表情で呟いた。
「本当は、ドクターストップなんかじゃなかった。
俺がプレッシャーから逃げただけ」
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