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固く握りしめられた先輩の拳を、自分の両手で包み込む。
ぎゅっ……と力を込めると、私の手の中で先輩の手が僅かに震えた。
「響……」
「情けなくなんか、ない……
わ、私……幻滅なんてしてません!」
卯木先輩は、私の顔を見て「何でお前が泣きそうになってんの」と眉を下げて笑った。
それから、空いていた反対の手を、私の両手の上に重ねるようにそっと乗せた。
大きくて、温かくて、少し汗ばんだその手のひらから、先輩の鼓動が微かに伝わってくる。
先輩は、親指の腹で私の手を優しく擦った。
「……俺が剱崎高校入った頃、放送部が無かったのは知ってるっけ?」
「えっ!し、知らないです……!」
驚いて目を見開いた私に、卯木先輩は「だよなぁ」と頬を緩める。
「実は部員不足で何年も前に廃部になってたんだって。だからあの旧校舎の放送室は、本当にオンボロの空き部屋状態だった」
そうだったんだ……
じゃあ、何で今先輩達が……?
私の疑問を察したように、先輩は続けた。
「こんなこと暴露するのダセーけど……俺、入学当初かなり問題児だったの。
サッカー辞めて無気力状態っていうか……学校にはろくに来てないし授業もサボりまくりで、当時の担任だったカミセンにとっては、それはもう迷惑極まりないクソガキ!」
あと、藤間にも散々心配かけたな……と付け足す先輩。
他人にあまり興味なさそうな藤間先輩が、卯木先輩のことをやたらと気に掛ける理由が、少しわかった気がした。
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