第6章 二人の魔神狩人

6/14
165人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
 七都は、夢を見た。  青い夜の空間。天には太陽のような月が輝いていた。  少年が、ひとりで遊んでいる。鮮やかな赤い髪、大きな緑の目。  彼の下には、石畳があった。あの遺跡の石畳だ。  彼は白い小石を握りしめ、石畳に何か絵を描いていた。  やがて、遺跡の何もない空間に、扉が現れた。  アイスグリーン。白緑の扉。七都のリビングにある、あのドアだった。  ドアが開き、女性がひとり、出てくる。  長い緑がかった黒髪、白い肌、目はワインレッド。だが、顔はぼやけていて、はっきりとはわからない。  白っぽい、ギリシアの女神を思わせる流れるようなデザインの衣装をつけ、肩には真っ黒な猫を毛皮の飾りのようにだらりと乗せている。彼女の肩に軽くちょこんと置かれている黒猫の両前足は、先だけが白い。  彼女は少年に気づいた。そして、ゆっくりと少年に近づく。  少年は、絵を描いていた手を止め、彼女を見上げた。  彼女は少年に、にっこりと微笑んだ。 「魔神族の匂いがする。あなたの遠いご先祖は魔神族なのかしら。そして、近いご先祖はアヌヴィム……?」  彼女は、少年に顔を寄せた。黒猫の目が金色に燃える。 (え? 何するの?)  七都は、夢の中で叫んだ。 (やめて、何するの、お母さん――!!!) 「は?」  七都は、目を開けた。  目の前のとても近いところに、セレウスの顔があった。  耳の横に彼の胸があり、彼の手が膝の下にあるのを感じる。  七都は、赤紫の目をいっぱいに見開く。  セレウスもまた面食らった様子で、いきなり目を開けた七都を見つめ返す。 「きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!!!!!!」  七都は、喉から声を絞り出して、思いっきり叫んだ。  セレウスは、慌てて七都から離れる。 「別に、何かをしようってわけじゃありませんから!」  セレウスは、憮然として言った。 「ただ、こんなところでずっと寝ていただくわけにもいきませんので。お部屋にお運びしようかなと思ったんです」 「あ。そうなの。ごめんなさい」  七都は言ったが、ちょっとほっとした。  もう少しで、彼にお姫様だっこされるところだった。ぎりぎりセーフ。  でも、眠ったふりして、そのまましてもらったほうがよかったかな。  ほんの欠片くらい、そう思ったりもする。 「それに、私は、あなたの『お母さん』じゃありませんから」と、セレウス。  しまった。声が出てた。  七都は、慌てる。 「えーとね。変な夢を見ていたの。小さな男の子が出てきて……。あれはあなただと思う。お母さんも出てきて……。お母さんは、あなたに何かした?」 「魔力を少しいただきましたよ。アヌヴィムとして」 「それだけ?」 「いだだいたものは、それだけです。さ、カトゥースの花もたくさん取れましたし、戻りましょうか」  セレウスが、微笑んだ。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!