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七都は、夢を見た。
青い夜の空間。天には太陽のような月が輝いていた。
少年が、ひとりで遊んでいる。鮮やかな赤い髪、大きな緑の目。
彼の下には、石畳があった。あの遺跡の石畳だ。
彼は白い小石を握りしめ、石畳に何か絵を描いていた。
やがて、遺跡の何もない空間に、扉が現れた。
アイスグリーン。白緑の扉。七都のリビングにある、あのドアだった。
ドアが開き、女性がひとり、出てくる。
長い緑がかった黒髪、白い肌、目はワインレッド。だが、顔はぼやけていて、はっきりとはわからない。
白っぽい、ギリシアの女神を思わせる流れるようなデザインの衣装をつけ、肩には真っ黒な猫を毛皮の飾りのようにだらりと乗せている。彼女の肩に軽くちょこんと置かれている黒猫の両前足は、先だけが白い。
彼女は少年に気づいた。そして、ゆっくりと少年に近づく。
少年は、絵を描いていた手を止め、彼女を見上げた。
彼女は少年に、にっこりと微笑んだ。
「魔神族の匂いがする。あなたの遠いご先祖は魔神族なのかしら。そして、近いご先祖はアヌヴィム……?」
彼女は、少年に顔を寄せた。黒猫の目が金色に燃える。
(え? 何するの?)
七都は、夢の中で叫んだ。
(やめて、何するの、お母さん――!!!)
「は?」
七都は、目を開けた。
目の前のとても近いところに、セレウスの顔があった。
耳の横に彼の胸があり、彼の手が膝の下にあるのを感じる。
七都は、赤紫の目をいっぱいに見開く。
セレウスもまた面食らった様子で、いきなり目を開けた七都を見つめ返す。
「きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!!!!!!」
七都は、喉から声を絞り出して、思いっきり叫んだ。
セレウスは、慌てて七都から離れる。
「別に、何かをしようってわけじゃありませんから!」
セレウスは、憮然として言った。
「ただ、こんなところでずっと寝ていただくわけにもいきませんので。お部屋にお運びしようかなと思ったんです」
「あ。そうなの。ごめんなさい」
七都は言ったが、ちょっとほっとした。
もう少しで、彼にお姫様だっこされるところだった。ぎりぎりセーフ。
でも、眠ったふりして、そのまましてもらったほうがよかったかな。
ほんの欠片くらい、そう思ったりもする。
「それに、私は、あなたの『お母さん』じゃありませんから」と、セレウス。
しまった。声が出てた。
七都は、慌てる。
「えーとね。変な夢を見ていたの。小さな男の子が出てきて……。あれはあなただと思う。お母さんも出てきて……。お母さんは、あなたに何かした?」
「魔力を少しいただきましたよ。アヌヴィムとして」
「それだけ?」
「いだだいたものは、それだけです。さ、カトゥースの花もたくさん取れましたし、戻りましょうか」
セレウスが、微笑んだ。
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