第3章 魔神狩り

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 遺跡の丘を下りる途中で、ユードは動けなくなった。  足を取られ、そのまま、丘の斜面を覆うように茂っている柔らかい草の中に倒れこむ。  ユードは、草の向こうに広がる光に満ちた遠い空を仰いだ。  血が流れて行く。背中から、そして、腕から――。  奇妙なことだが、気持ちがいいくらいに、潔く流れ落ちる。  ナイジェルは急所をはずしたと言ったが、このまま血が流れ続けると助からないかもしれない。 (私は、ここで死ぬのか……?)  いや、まだ死ぬわけにはいかぬ。やらねばならぬことがあるのだ。  会わねばならぬ人物もいる。  だが、人々が往来する道には、まだ遠い。  ここでこうして草の中にうずもれていても、誰にも発見はされるまい。もう少し丘を下らねば……。  ユードは、胸元に手を入れた。  その手には、緑色を果てしなく黒に近づけた不思議な色の髪が、絡まるように握られている。  七都の髪だった。  ユードは、それを太陽にかざした。  七都の髪は、太陽の光を受けて、明るい色味を帯びる。  やはり、太陽に溶けもしない。  魔神族の髪は、太陽にかざせば、瞬時に蒸発してしまう。  それは、魔神狩人たちにとっては常識だった。  手ごわい相手が現れたものだ……。  ああいう魔神族は、もっといるのか?  それよりこの先……。私は今のこの状況を抜け出して、あの娘に再び相まみえることがあるのか?  ユードは自嘲気味に、ふっと笑った。  甘いな。魔神狩人ともあろうものが、あの二人の魔神に油断した。  美しい少年少女の姿をした魔神たち……。  ナナト――。  あの娘にある人の面影を垣間見て、隙が出来た。  あれは、いったい何者だ?  なぜ、ああも似ている?  そして、ナイジェル――。  彼の体を陽だまりに投げ出すことも出来たのに、そうすることを確かに避けた。  躊躇したのは事実だ。情が移ったのか。  そして、今まであまり気にもとめなかったが、ナイジェルがしていた耳飾り……。  あれは、まさか……。  血が流れる。  自分の命も少しずつ血に変化して、流れ果てて行くような気がする。  ユードの次第に曇っていく視界に、一人の少女が映った。  長い真紅の髪。風になびく白い衣。  目は、ユードの周囲でさらさらと揺れている、柔らかい草によく似た緑色。  少女はユードを見下ろして、微笑んだ。
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