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ナイジェルは、目を開けた。
透明な水色の目が、星を描いた遺跡の天井をさまよう。
静かだ。
周囲に地下の闇を感じる。そして、はるか頭上に輝く太陽の存在も微かに感じられる。
彼は、自分が横たわっている場所と状況を思い出した。
少し気分はよくなっている。
ただ、喉の渇きはひどくなっていた。太陽が沈むまで我慢できるだろうか。
手を失ったのは不覚だった。
自分を過信し、太陽を侮っていた。
やはりこの世界では、太陽は敵か。
それは、体の一部を失うことによって思い知らされた過酷な現実――。容赦なく彼に突きつけられた事実だった。
この体は、太陽と共存することは出来ない。その光に当たるとたちまち分解し、溶け始めてしまう。
前の世界では、太陽など気にせずに過ごしていた。
太陽の光を当たり前のように浴びて一日を過ごし、日の出も日の入りも関係なかった。
それと同様のことは無理だとしても、少しはここの太陽には耐えられると思っていた。だが、それは甘い幻想だった。
そのことを理解するために、非常に大きな代償を払うことになってしまった。
この先、口さがない連中……噂好きな魔貴族たちに、陰でぐだぐだ言われるだろう。自覚が足りないとか、行動がふさわしくないとか……。
けれども、そんなことはどうでもいい。
とにかく、助けようとしたあの風の魔神族の娘が無事だったのだから。
取りあえずは、それだけで十分だ。
「ナナト?」
ナイジェルは、その無事だった風の魔神族の娘を呼んでみたが、返事はない。気配も消え失せていた。
「出て行ったな。あの向こう見ずな、おてんばお嬢さん……。いや、お姫さまか。まあ、僕が同じ立場なら、たぶん出て行くだろうから、仕方ないか。爆発炎上して暴走してなきゃいいけど」
ナイジェルは目を閉じ、静かに呟く。
「ナナト。魔神族の食べ物が、花やお茶だけであるわけがないんだよ」
そのとき――。
ひたひたと通路を渡り、広間に近づいてくる何かの気配をナイジェルは感じた。
魔神族ではない。
芳しい、甘い香り。
人間だ。
ナイジェルは、横たわって目を閉じたまま、扉が開くのを待った。
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