第4章 魔王の神殿

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 ナイジェルは、目を開けた。  透明な水色の目が、星を描いた遺跡の天井をさまよう。  静かだ。  周囲に地下の闇を感じる。そして、はるか頭上に輝く太陽の存在も微かに感じられる。  彼は、自分が横たわっている場所と状況を思い出した。  少し気分はよくなっている。  ただ、喉の渇きはひどくなっていた。太陽が沈むまで我慢できるだろうか。  手を失ったのは不覚だった。  自分を過信し、太陽を侮っていた。  やはりこの世界では、太陽は敵か。  それは、体の一部を失うことによって思い知らされた過酷な現実――。容赦なく彼に突きつけられた事実だった。  この体は、太陽と共存することは出来ない。その光に当たるとたちまち分解し、溶け始めてしまう。  前の世界では、太陽など気にせずに過ごしていた。  太陽の光を当たり前のように浴びて一日を過ごし、日の出も日の入りも関係なかった。  それと同様のことは無理だとしても、少しはここの太陽には耐えられると思っていた。だが、それは甘い幻想だった。  そのことを理解するために、非常に大きな代償を払うことになってしまった。  この先、口さがない連中……噂好きな魔貴族たちに、陰でぐだぐだ言われるだろう。自覚が足りないとか、行動がふさわしくないとか……。  けれども、そんなことはどうでもいい。  とにかく、助けようとしたあの風の魔神族の娘が無事だったのだから。  取りあえずは、それだけで十分だ。 「ナナト?」  ナイジェルは、その無事だった風の魔神族の娘を呼んでみたが、返事はない。気配も消え失せていた。 「出て行ったな。あの向こう見ずな、おてんばお嬢さん……。いや、お姫さまか。まあ、僕が同じ立場なら、たぶん出て行くだろうから、仕方ないか。爆発炎上して暴走してなきゃいいけど」  ナイジェルは目を閉じ、静かに呟く。 「ナナト。魔神族の食べ物が、花やお茶だけであるわけがないんだよ」  そのとき――。  ひたひたと通路を渡り、広間に近づいてくる何かの気配をナイジェルは感じた。  魔神族ではない。  芳しい、甘い香り。  人間だ。  ナイジェルは、横たわって目を閉じたまま、扉が開くのを待った。
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