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七都とセレウスは、回廊に出た。
太陽の位置は高くなっていて、その光は中庭に降り注いでいる。
朝よりもさらに暑くなり、白い光をたっぷり含んだ空気は、呼吸するのさえ苦しいほどだ。
猫たちはのんびりと、それぞれ思い思いの位置に好みのポーズで散らばっている。
七都はフードを深く下ろし、セレウスのあとについて行った。
カトゥースのお茶を飲んだおかげで、体力は少し戻っていた。喉の渇きも空腹も、ある程度は癒されている。
セレウスが突然立ち止まったので、七都は彼の背中にぶつかりそうになった。
「この上に、彼がいますよ」
セレウスが、二階に続く階段を指し示した。
「え?」
「あなたのお知り合いの水の魔神族と渡り合ったという、例の魔神狩人です」
「ユードが?」
「本当に無視していいのですか?」
七都は階段を眺めたが、すぐに目をそらす。
「いいよ、もう。会いたくない。あの人は、水の魔神族の男の子の片腕を太陽にかざして奪ったし、その前に闇の魔神族の女の人をエヴァンレットの剣で殺したもの。大体、私も殺そうとしたし。遺跡の柱に縛り付けて、太陽で焼こうとしたんだから。絶対、許せない」
「それは、聞き捨てなりませんね」
セレウスは腰のあたりから、さりげなく剣を取り出した。
「彼を殺しますか? あなたがそうお望みなら……」
セレウスの若草色の目が、きらりと妖しく光る。
「や、やめてよっ。物騒なもの持って、物騒なことをさらっと言うのはっ」
七都はあわてて、剣を握りしめたセレウスの手を両手でつかんだ。
その途端、彼の体温が軽い衝撃となって伝わってくる。
あ、この人も体温高い。
熱いくらいにあたたかすぎる。ユードと同じだ。
この世界の人間って、こういう体温?
七都は、セレウスの手を離した。
セレウスは、七都が触れても、ティエラのようには固まらなかった。そのことに七都はほっとする。
「彼は、殺しません。殺しちゃだめ。怪我がよくなったら、この館から無事に出してあげてください」
七都は、ごく軽く命令するようなニュアンスを含めて、セレウスに言った。
魔神族はアヌヴィムよりも立場が上みたいだから、言うことは聞いてくれるはず……。
「わかりました。そうしましょう」
セレウスは、七都が思ったとおり、素直に剣をしまった。
「あ、でも……。ちょっとだけ隙間から覗いてもいい? 彼、眠ってるんだよね?」
「ええ。さっき様子を見に行ったときには、よく眠っていましたよ。では、どうぞ」
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