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「いい加減、下がってくれないかな」
横たわったナイジェルは、呟いた。
台の傍らには、ゼフィーアが相変わらず控えて座っている。
広間には、彼女が焚いた香の芳しい煙が、薄く紫色に漂っていた。
「わたくしは、ここにいたいのです」
ゼフィーアが言う。
「僕は、いてほしくないな」
「まあ、回りくどくなく、率直におっしゃられるのですね、シルヴェリスさま。少なからず傷つきますわ」
「魔法を使わずに石を拾ってくれたことは感謝するよ。何度でもお礼は言おう。ご苦労だった。ありがとう。お疲れさま」
「あれほどのことで、感謝のお言葉など、いただきたくはありません。わたくしがいただきたいものは……」
「僕は、君が望んでいるものをあげるつもりはない。だから、君がここにいる意味もない」
「でも、わたくしは、あなたが必要なものを差し上げることが出来るのです。ですから、ここで待たせていただきます」
「待つ? いつまで?」
「あなたがわたくしを受け入れてくださる、そのときまで」
「気の長いことだ」
「恐れながら、今のあなたさまのその状態では、そんなに時間がかかるとは思われません」
「けれど、そうなる前に魔神族がもう一人、ここに帰ってくる。その魔神族が君に何をしようと、僕は止められないし、止めるつもりもない。だから君は、ここにいてはとても危険だと思うけどね」
「それは下級魔神族ですか? ま、怖いこと。でも、わたくしは恐れませんよ。アヌヴィムの魔女の中では、魔法は使えるほうですし」
ゼフィーアは、愛くるしく首をかしげた。
「君は魔法で若作りしてるけど、本当は、歳は幾つなのかな」
ナイジェルが目を閉じたまま、呟く。
「歳のことはお互い様ですわ。言いっこなしですよ、魔王さま」
ゼフィーアは微笑んだが、その微笑は明らかに無理をして作ったものだった。
「とにかく、ここにいさせていただきます。わたくしは、ずっと待っていたのです。いつか、ここに魔王さまが来てくださるのではないかと……。この日を夢見ておりました」
「それは、七人の魔王のうちの誰でもよかったってこと? 水の魔王は地味だから、闇の魔王とか、火の魔王のほうがよかったとか」
「お、おたわむれを……」
「君が下がらないなら、僕はこのまま、また眠る。まだ太陽は高いからね。でも、決して僕に触れてはならないよ。これは警告だ」
ゼフィーアは黙り込んで、頭を下げた。
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