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セレウスが出て行った後、七都は地面に腰を下ろした。
蝶たちは、七都の頭やマントを休憩所にしているようだ。ひらひらと舞っては七都にとまり、また花の間を飛び回る。
眠い……。
七都は、気だるい眠気を感じた。
この蝶たちにたかられると、眠くなるのかもしれない。
それとも、ここの太陽から開放された場所にいるために、気が緩んで疲れが出てきたのか。
七都は、目を閉じる。
静かだ。
今まであったことは、現実のことなのだろうか?
扉の向こう側にあったこの世界や、これまでに出会った沢山の人たちは、本当に存在するのか?
やっぱり、夢じゃないのだろうか。最初から、ずうっと夢を見ていただけなのでは……。
期末テストが終わって、気が抜けて、自分の部屋のベッドで寝転んで見ている、長い夢。
実は、本当はそうなのかもしれない。七都は思ってみる。
でも、遠い。自分の家も部屋も、遠い遠い彼方に、かろうじて存在しているような気がする。
果林さん、心配してるかな。
元の世界では、どれくらい時間がたっているのだろう。
二つの世界の時間の流れが同じなら、果林さんは、もうとうに帰っているはずだ。
靴もないし、どこかに出かけたと思うだろうか。
果林さんの顔を思い描いてみようとしたが、それはぼやけていた。
このままこの世界に長い間いたら、ますます思い出せなくなってしまいそうな不安を、七都は微かに覚えた。
眠い。
体から力が抜ける。
七都は、虹色のカトゥース畑の中で、横になった。
透明な蝶たちが、薄青い光の中をふわふわ飛び交う――。
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