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「あの剣は、見事に私に反応していた。やはり、私がアヌヴィムだという証拠か……」
セレウスは、地下への通路を再び降りながら呟いた。
猫たちは、犬がいなくなったので再び姿を現し、地下の通路にも数匹ついてきている。
この館で『アヌヴィム』といえば、大抵はゼフィーアのことを指した。
セレウスも魔法は少し使えたが、ゼフィーアの足元にも及ばない。ゼフィーアも、弟をアヌヴィムとは認めていないような節もある。セレウス自身、アヌヴィムであるという自覚は、日頃から持っているわけではなかった。
だが、エヴァンレットの剣は反応した。おまえはアヌヴィムの魔法使いなのだ。そう告げるかのように。
その現実をあからさまに突きつけられたような気がした。
「ならば、行状を改めねばならぬか。アヌヴィムとしては、不真面目に暮らしてきた。あの方もここに来られたこの折……。そういえば、あの剣、魔神族のあの方には反応していなかった。あの方の言われた通り」
セレウスは、カトゥース畑の扉を開けた。
青白い静寂に満ちた空間が彼を包む。
セレウスは『あの方』、つまり七都を探す。
「ナナトさま?」
一瞬セレウスは不安になったが、七都がカトゥースの間で眠っているのを発見して、ほっと胸を撫で下ろした。
蝶たちが七都の髪に、宝石で作られた見事な細工の髪飾りのように止まっている。
セレウスは屈み込んで、眠っている七都をやさしい表情で見つめた。
やはり、自分が子供の頃に出会った魔神族によく似ている。その魔神族の娘だというのなら、当然のことかもしれないが。
遺跡の庭に突然現れた扉。その扉を開けて出てきた魔神族の女性は、この少女と同じように緑の髪と葡萄酒色の目をしていた。彼女は、唖然として立ち尽くすセレウスを見つけ、微笑みかけた。今でもはっきりと覚えている。
だが、目の前で眠っている少女は、あの女性とは違う。妖艶さも成熟した美しさも、まだ持ってはいない。
こうして横たわっていると、人間の少女と同じだ。とても魔神族には思えない。
なんとあどけなく、無防備に眠っていることか。子猫のように丸まって。
「私では、あなたのアヌヴィムにはなれませんか?」
セレウスは、呟いた。
それからセレウスは、しばし黙って七都を眺めたあと、立ち上がる。
「このまま少しの間ですが、眠っておいて下さいね。まだカトゥースも用意しなければなりませんし」
再びセレウスは、カトゥースの花を切り始める。
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