第6章 二人の魔神狩人

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 魔神狩人の少女は、そこに立ちはだかるように広がるクリーム色の壁を見上げた。  縁に蝶がたくさん集まっている装飾を施された窓が、等間隔に並んでいる。  あのどこかだ。  そこは、先程門前払いを食らったアヌヴィムの魔法使いの館だった。  だが、館を囲む塀は簡単に乗り越えられたし、ここまで問題なく入って来ることが出来た。  ただ猫が数匹、彼女が敷地内に降り立ったときから、ずっとあとをついてきたのだが。 (何て警備の薄い家なんだろ。不用心ね)  猫たちはおとなしくついてくるだけなので、あまり彼らの存在は気にしないようにして、彼女は館の周囲を注意深く移動した。そして、ユードがいそうな部屋に見当をつけたのだ。  少女は、細いロープを窓のひとつに向かって投げた。  蝶の装飾の一部に、ロープの先がひっかかる。  ぐっと引っ張って確かめてみると、十分な手ごたえが返ってくる。 「よし。行くぞ」  少女は呟いたが、たくさんの視線を感じて、振り返る。  半円を作るようにして、猫たちが少女の周りに座っていた。  数十の透明な目が自分を遠巻きにして観察しているのに気づいて、彼女はぎょっとする。  さっきより猫たちの数が増えていた。 「き、きっと、私に犬の匂いがするから、近づいて来ないのね。そこでおとなしく見てなさいな」  少女はロープを手繰って、壁を上り始めた。  この建物は、二階までしかない。ユードを探し当てるのはそんなに困難ではないだろうし、時間もかかるまい。  ふと下を見ると、もっと数が増えた猫たちが、彼女を一斉に見上げている。何か嫌な感じだ。  猫は苦手ではない。どちらかといえば好きなほうだ。魔神狩りのために犬を飼っているとはいうものの。  とはいえ、この数の猫に見つめられたら、不気味ささえ覚える。  いったいこの家には、猫がどれくらいいるのか。百匹くらいか?  少女は窓の高さまでロープで上がり、蝶の装飾に手と足をかけて、体を支えた。  そっとガラスの向こうを眺め、そこにあるものを確認する。 「当たりね。私のカンも、なかなかのものだわ」  少女は、ガラスを軽くたたいた。  ベッドに横たわるユードが目を細めて、窓に目を向ける。  ユードの足の上や両脇、枕の横で丸くなって眠っていた猫たちも、揃って目を覚ました。  少女は窓を開けた。窓も、拍子抜けするくらいに簡単に開く。
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