第6章 二人の魔神狩人

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「カディナ……!」  ユードが呟いた。 「何してるのよ、ユード。こんなところで。ここはアヌヴィムの家なのよ」  カディナと呼ばれた少女が、非難するようにユードを睨む。 「そう責めるな。好きでここにいるわけではない」  ユードが言った。 「ちょっと待って。中に入るから」  カディナは、窓から部屋の床に下りようとしたが、何か弾力のある透明なものに体が突き当たる。 「どうして? これは……」  カディナは、窓の枠の中の何もない空間をたたいた。  空間はカディナの手を確実に押し返してくる。これでは、部屋には入れない。 「おそらくそこには、魔法の見えない壁が貼られているんだろう」 「魔法の壁? それで警備が薄いわけね」 「私を助けに来たのか?」  ユードが灰色の目でカディナを見る。  カディナは、首をすくめた。 「まあ、そういうこと。魔法使いって、あの赤い髪の男の人でしょ。彼を脅して、魔法の壁を取っ払わせたら……」 「無駄だ」  ユードが冷たく言った。 「私は、当分動くつもりはない。もう少し回復するまでは、ここにいることにした。今無理をしたら、動くようになるものも動かなくなる」  ユードは、右手をちらっと見下ろす。  カディナは、信じられないとでも言いたげに、目を見開いた。 「このアヌヴィムの家に、まだ留まるってこと? あなたが?」 「余計な感情は、当分封印する。これも、血の吐くような努力の一部かもな」 「その怪我は、魔神族にやられたの?」 「魔王だ」 「え?」  カディナは、顔をこわばらせた。 「水の魔王シルヴェリス。本名はナイジェル。彼の右腕を奪った代償だ」 「魔王がこの町の近くにいるの? それで、剣が半分金色に光ってたんだ」 「おまえは、すぐにこの町から出て行け」  ユードが言った。 「なんでよ? あなたがもう少しよくなるまで、この町の宿にでも泊まってるから。魔王がいるなら、なおさら……。魔王なんて、めったにお目にかかれないじゃない。それにその魔王は、あなたとの戦いで怪我してるわけでしょ」 「おまえの手には負えん」と、ユード。 「傷ついて弱った魔王がいるからといって、見に行こうなんて考えるなよ。油断して近づくと、命取りだぞ。だいたいおまえは、魔貴族どころか下級魔神族しか相手にしたことがないんだろうが」  カディナは、不満そうな顔をする。 「だって私の担当は、今のところ下級魔神族ってことになってるもの」 「それが妥当だからだ。あと、この館にはひとり、魔神がいる。見た目は人間のかよわそうな少女だが、エヴァンレットの剣を二本破壊された。彼女は太陽の光の中を我々と変わらずに歩ける。エヴァンレットの剣も、彼女に対して反応はしない。彼女が魔力を使ったときは、反応するようだが」 「なに、それ……」  魔神族が近くにいるというのに、この剣が反応しない……?  カディナは、エヴァンレットの剣を鞘から抜いた。  刃の全体が青味を帯びた銀色の光を放っている。  それは、魔神族を示す金色の光ではなかった。アヌヴィムが近くにいるという意味でしかない。 「そういう魔神族もいるということだ。おまえのその剣も破壊されないうちに、この館から立ち去ったほうがいい。そして、その剣がどんな反応をしようと無視して、隣の町まで、よそ見をせずに行くんだ」 「でも、あなたを置いて行けないよ」 「私は怪我が治り次第、勝手にここから出て行く。心配しなくてもいい」  ユードは言ったが、魔神狩人の少女は窓枠の蝶につかまったまま、そこから動く気はなさそうだった。
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