第6章 二人の魔神狩人

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「ちょっと寝すぎたかな」  七都は、呟いた。 「早めに遺跡に帰らなくてはいけなかったのに。ナイジェル、心配してるかも……。もし起きてたら、すっごく心配してるだろうな。黙って出てきたし。でも、彼があのままずっと眠ってたら、早めに帰っても暇なだけなんだけど」  太陽は既に頂上を通り過ぎ、随分傾いているように見える。  地上に戻った七都とセレウスは、再び回廊を並んで歩いた。  午後のけだるげな陽の光が中庭に注いでいる。回廊のあちこちにいた猫たちの姿は、今はもうなかった。 「でも、あのお茶を飲んで、お花を食べて少し寝たら、気分がとてもよくなったよ。元気が出てきた感じ。太陽も、そんなに鬱陶しく思わないし」  七都は、歩きながら両手を突き上げて、うーんと伸びをする。 「……あの、ナナトさま。お聞きしてもいいですか?」  収穫したカトゥースの袋を抱えて、黙って歩いていたセレウスが言った。 「ん? なあに?」 「そのナイジェルというお方……。我々は水の魔王さまのことは、シルヴェリスさまというお名前でお呼びしていますが……。その方は、あなたの恋人か何かですか?」  七都は、ぶんぶんと首を激しく振った。 「まさかっ。だって、ナイジェルとも会ったばかりなのに。そりゃあ、ナイジェルには助けてもらったし、いろいろ心配してもらったし、教えてもらったし、第一、彼は何かとやさしかったけど、そんな感情は、まだ……」 「まだ? では、将来的にはそういう感情を抱かれるということですか」  セレウスが、暗めに訊ねた。 「そんなのわからないよ。未来のことなんて、誰にも予測できないでしょ。でも、確かにナイジェルは素敵だと思うけど」 「……そうですか」  セレウスが、溜め息をつく。 「あ、あなたも素敵だから。ね。私が住んでる世界にもしあなたが来たら、女の子たちはみんな、絶対に振り返ると思うよ。街を歩いたら、俳優とかアイドルのスカウトも、いっぱい来ると思う」 「それは、どうも……。あなたが後半おっしゃったことはよくわかりませんが、たぶん褒められているのでしょう」  相変わらず、暗い感じでセレウスが言う。 「遺跡に帰られたら、それからどうされるのですか?」 「それから? 太陽が沈んだら、たぶんうちの飼い猫のナチグロが帰ってくるから……あ、その猫も、たぶん魔神族。そのナチグロと一緒に扉を開けて、元の世界に帰る。ナイジェルは、魔の領域とかにある自分のお城だか宮殿だかに帰るんじゃないかな」 「では、もうすぐお別れなのですね」  セレウスは言ったが、はっと顔を上げ、二階へと続く階段を見つめる。 「どうしたの?」 「何かが違っています。違和感が……。館の空気が乱れている」 「そういえば、猫たちがいないけど……」 「走ります!」  セレウスは言うなり、カトゥースの袋を素早く床に置き、音をたてずに階段を駆け上がった。  七都も、あとに続く。
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