165人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「あなたは猫が好きなのですね。猫たちは、そういうことを一瞬で見抜きますから」
セレウスが、カディナに笑いかける。
猫たちは、窓とカディナを見比べた。明らかに、どこか適当に乗っかれるところはないかと探しているようだ。
やがて猫たちの中の一匹が、カディナの膝に照準を合わせ、体を低くした。銀色の毛の大きな猫だ。
「だめよ! この窓には魔法の壁があって、ぶちあたってしまうわ」
カディナが、まさに飛び上がろうとしている猫に叫ぶ。
だが、猫はしなやかに床を蹴った。そして、窓を突き抜け、目的地であるカディナの膝に着地する。
「なんで……」
大きな猫にしつこくすりすりと頬ずりされながら、カディナは力なく呟く。
「猫たちには、その窓の透明な障壁は、問題なく通り抜けられるようにしてありますから。この館の住人とお客さまもね。通れないのは、外部からの招かれざる方と、ここから出て行ってもらいたくない方のみです」
セレウスが説明する。
「つまり、今現在では、カディナと私ということか」
ユードが言った。
「ま、そういうことです。でも、あなたに関しては、私としては、いつ出て行っていただいても構いませんよ」と、セレウス。
銀色の猫は、カディナの膝から肩へと移動した。それから、カディナの頭に前足を乗せて、伸び上がる。
「や、やめて。動かないでっ」
「その猫は、この館でいちばん重い猫です。気を付けてくださいよ」
セレウスが注意する。
床に座ってカディナと銀猫を観察していた黒猫が、鞠のように、ぽんとはずんだ。カディナの背中には、黒猫が追加される。
「あ。あーっ!!」
「やっぱり、みんな、居心地のよさそうなところには乗ってみたいんだよね」
七都は、解説した。
部屋にいた猫たちは、それを実証するように、次々とカディナめがけて飛び上がる。
「私の体のどこが居心地いいっていうのよっ。やめなさいっ……! 下りられないじゃないっ!」
そこは二階なので、それほど高い場所ではない。いつものカディナなら、簡単に下りられる高さだ。
だが、着地するべき地面を見下ろして、カディナは、うめき声をあげた。
そこにも猫たちがたくさんいて、カディナを見上げていた。
まるで猫の絨毯だ。これでは、猫を蹴散らさなければ、地面に到達することは不可能だ。
銀猫が、カディナの腕に乗った。痩せた少女の腕一本で支えられる重さではなかった。おまけに、黒猫がカディナの足にぶらさがる。
白猫と金猫は膝の上でくつろごうとし、さらにもう一匹、ちょうどカディナの膝に爪を立てて飛びついたところだった。
「あーっ!!!!」
カディナは、窓枠から滑り落ちた。
カディナに乗っかっていた猫たちは、素早くカディナから離れ、それぞれ難なく地面に着地する。
下の猫たちの上に落ちるのを避けるために、一瞬カディナは、体をねじって向きを変えようとした。
けれども、猫たちがその方向にわざわざ移動したから、たまらない。完全にバランスを失って、地面に激突することになってしまった。
猫たちは、蜘蛛の子を散らすようにさーっと引いて、カディナを遠巻きにして眺めた。
「痛っ! いたいっ!!! 腕がっ!」
「……猫好きが命取りだ」
ユードがベッドの上で溜め息をつき、額に手を当てた。
セレウスは、窓から下を眺めて確認し、優雅な動作でふわりと地面に飛び降りた。
それから、痛さに呻いているカディナの傍に立つ。
「その様子では、骨が折れてるかもしれませんね」
セレウスは、腕を押さえているカディナを見下ろして、屈みこんだ。
「さ、さわるな!!」
カディナが叫ぶ。
「この高さから飛び降りて骨折とは、ろくなものを食べていないようですね」
セレウスは、カディナを軽々と抱え上げた。
「はなせ! 下ろしてよっ!」
カディナは、じたばたと暴れて抵抗する。
「暴れると治るのが遅くなりますよ。あーあ。また一つ部屋を用意しなければなりませんねえ。別に、魔神狩人専門の病院を始めたわけではないんだが。姉上が帰って来られたら、病人が増えててびっくりされるでしょう。ところで、あのけたたましい犬は?」
セレウスは、おとなしくなったカディナに訊ねた。
「この町の宿に置いてきた」
「では、宿の主人に、当分世話をしてもらうように頼まないといけませんね」
セレウスは、カディナをあっさりと運んで行く。
最初のコメントを投稿しよう!