第6章 二人の魔神狩人

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「あなたは猫が好きなのですね。猫たちは、そういうことを一瞬で見抜きますから」  セレウスが、カディナに笑いかける。  猫たちは、窓とカディナを見比べた。明らかに、どこか適当に乗っかれるところはないかと探しているようだ。  やがて猫たちの中の一匹が、カディナの膝に照準を合わせ、体を低くした。銀色の毛の大きな猫だ。 「だめよ! この窓には魔法の壁があって、ぶちあたってしまうわ」  カディナが、まさに飛び上がろうとしている猫に叫ぶ。  だが、猫はしなやかに床を蹴った。そして、窓を突き抜け、目的地であるカディナの膝に着地する。 「なんで……」  大きな猫にしつこくすりすりと頬ずりされながら、カディナは力なく呟く。 「猫たちには、その窓の透明な障壁は、問題なく通り抜けられるようにしてありますから。この館の住人とお客さまもね。通れないのは、外部からの招かれざる方と、ここから出て行ってもらいたくない方のみです」  セレウスが説明する。 「つまり、今現在では、カディナと私ということか」  ユードが言った。 「ま、そういうことです。でも、あなたに関しては、私としては、いつ出て行っていただいても構いませんよ」と、セレウス。  銀色の猫は、カディナの膝から肩へと移動した。それから、カディナの頭に前足を乗せて、伸び上がる。 「や、やめて。動かないでっ」 「その猫は、この館でいちばん重い猫です。気を付けてくださいよ」  セレウスが注意する。  床に座ってカディナと銀猫を観察していた黒猫が、鞠のように、ぽんとはずんだ。カディナの背中には、黒猫が追加される。 「あ。あーっ!!」 「やっぱり、みんな、居心地のよさそうなところには乗ってみたいんだよね」  七都は、解説した。  部屋にいた猫たちは、それを実証するように、次々とカディナめがけて飛び上がる。 「私の体のどこが居心地いいっていうのよっ。やめなさいっ……! 下りられないじゃないっ!」  そこは二階なので、それほど高い場所ではない。いつものカディナなら、簡単に下りられる高さだ。  だが、着地するべき地面を見下ろして、カディナは、うめき声をあげた。  そこにも猫たちがたくさんいて、カディナを見上げていた。  まるで猫の絨毯だ。これでは、猫を蹴散らさなければ、地面に到達することは不可能だ。  銀猫が、カディナの腕に乗った。痩せた少女の腕一本で支えられる重さではなかった。おまけに、黒猫がカディナの足にぶらさがる。  白猫と金猫は膝の上でくつろごうとし、さらにもう一匹、ちょうどカディナの膝に爪を立てて飛びついたところだった。 「あーっ!!!!」  カディナは、窓枠から滑り落ちた。  カディナに乗っかっていた猫たちは、素早くカディナから離れ、それぞれ難なく地面に着地する。  下の猫たちの上に落ちるのを避けるために、一瞬カディナは、体をねじって向きを変えようとした。  けれども、猫たちがその方向にわざわざ移動したから、たまらない。完全にバランスを失って、地面に激突することになってしまった。  猫たちは、蜘蛛の子を散らすようにさーっと引いて、カディナを遠巻きにして眺めた。 「痛っ! いたいっ!!! 腕がっ!」 「……猫好きが命取りだ」  ユードがベッドの上で溜め息をつき、額に手を当てた。  セレウスは、窓から下を眺めて確認し、優雅な動作でふわりと地面に飛び降りた。  それから、痛さに呻いているカディナの傍に立つ。 「その様子では、骨が折れてるかもしれませんね」  セレウスは、腕を押さえているカディナを見下ろして、屈みこんだ。 「さ、さわるな!!」  カディナが叫ぶ。 「この高さから飛び降りて骨折とは、ろくなものを食べていないようですね」  セレウスは、カディナを軽々と抱え上げた。 「はなせ! 下ろしてよっ!」  カディナは、じたばたと暴れて抵抗する。 「暴れると治るのが遅くなりますよ。あーあ。また一つ部屋を用意しなければなりませんねえ。別に、魔神狩人専門の病院を始めたわけではないんだが。姉上が帰って来られたら、病人が増えててびっくりされるでしょう。ところで、あのけたたましい犬は?」  セレウスは、おとなしくなったカディナに訊ねた。 「この町の宿に置いてきた」 「では、宿の主人に、当分世話をしてもらうように頼まないといけませんね」  セレウスは、カディナをあっさりと運んで行く。
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