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第7章 魔王シルヴェリスの出立
七都とセレウスは、館を出た。
セレウスは、カトゥースの花が入った布袋を肩に乗せ、手にはお茶が入った陶製の容器を持っている。
七都はどちらかを持とうと申し出たが、当然のごとく、セレウスは持たせてはくれなかった。
「ここでいいよ。ありがとう」
町の門を通り抜けたところで、七都はセレウスに言った。
「荷物が重いし、やっぱり遺跡まで行きます。丘まで上がるのも大変でしょう。あなたは魔力の使い方もご存知ないみたいですし」と、セレウス。
「普通魔神族なら、こういう場合、どうするの?」
「そうですね。例えば、遺跡まで飛んで行くとか。荷物ごと一瞬で移動するとか?」
「無理かも」
「でしょう?」
セレウスは、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「でも、ティエラに怒られるよ」
「私は、アヌヴィムの魔法使いです。もう彼女の知っている小さな子供ではありませんから」
セレウスが言った。
「セレウス!」
その時、聞き覚えのある声が追いかけてきた。
二人が振り返った先に、金色の巻き毛と緑色の目の少女が、息を切らせて立っていた。セージだ。
「おねえさん、魔神さまなんですってね」
セージが、するりと七都の前に回って、物怖じせずに言った。
「こらこら、なんて失礼な」
セレウスが慌てる。
「お別れを言いにきてくれたの?」
「私も一緒に、おねえさんを送っていく。ね、いいでしょ、セレウス?」
「君は、帰りなさい」
セレウスは、語調を強めて従妹に言った。
「私も、帰ったほうがいいと思う。お母さんに確実に怒られるよ。あなたがついて来たら、セレウスもお母さんに怒られるでしょう」
七都も、同意する。
セージは、無理やりセレウスから、お茶の入った容器を取り上げた。
「こ、こら!」
「帰らない。母さまは魔神族が好きじゃないみたいだけど、でも、私たちはアヌヴィムの一族なのよ。それに、魔神族の血も混じってるらしいもの」
セージが言った。
「ゼフィーアは、私には魔法を使う才能があるって、時々言ってくれるんだから」
セレウスは頭を抱えて、溜め息をつく。
「あなたは、アヌヴィムの魔女志望なの?」
七都の質問に、セージは頷いた。
「だからね、おねえさんともっと一緒にいたいんだ」
近い将来、きっとセージとティエラの間には、進路について確執が起こるだろうな、と七都は予想した。
セージは、ついていくことを認められたと勝手に判断した様子で、先頭に立って機嫌よく歩き始める。
「だが、君は今のところ、完璧に人間だからね。魔法も使えない。ナナトさまは、たまたま友好的な魔神さまだけど、普通はこうはいかない。それに、遺跡には……」
セレウスは、丘を眺めて、言葉を飲み込んだ。
そう、遺跡には、魔王がいる――。
七都は、彼が表に出していない不安と恐怖を感じ取った。
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