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太陽は低く輝き、地上の景色は、オレンジ色を淡く混ぜ込んだように照らされていた。
空は透明感を帯びて、雲は薄い金色に縁取られている。三人は、丘への道をゆっくりと歩いた。
涼しい風が、時折、頬を撫でていく。
この風景の中には、人間がつくったものが少ない。
背後の素朴なクリーム色の町と、丘の上の古代の遺跡くらいだ。
当然のことだが、七都がいつも目にしているビルの群れも、道路も線路も、鉄橋も見当たらない。
「なんか、こうやって自然いっぱいの中を歩いてると、ピクニックに行く途中みたい」
七都は、呟いた。
「なんですか、それは?」と、セレウス。
「お弁当を持って、みんなで野山に出かけるの」
「それは楽しそうですね。いつかやってみたいです」
「私も!」セージが言った。
「うん。行ければいいね」
この二人とは、もしかしたら将来、そういうことも出来る機会があるかもしれない。漠然と七都は思った。
七都が元の世界に戻ると、もう二度と会うことはない。そちらの確率も高そうだったが。
一行は丘を登り、やがて遺跡に到着する。
遺跡の柱の表面は、沈んで行く太陽の光に照らされて、薄紅色に輝いていた。
機械の馬もメーベルルの鎧もそのままの位置にあったが、七都が鎧に供えたユードの花束は、既に太陽に水分を吸い取られ、ぐったりとしおれていた。
招き猫は、相変わらず片手を上げて佇んでいて、その頭には付箋がしっかりと貼り付いている。
セレウスとセージは、地下通路の入り口の前で、七都にカトゥースの花とお茶を渡した。七都は花の袋を肩にかけ、お茶の容器は紐に手を通す。
「下まで行こうよ。あの階段、魔神さまひとりじゃ大変でしょ」
セージが無邪気に言った。
「いや。我々はここまでだ。下まで行ってはならない」
セレウスが諭すように呟いた。
彼の尋常ではない緊張感が伝わったのか、セージは黙り込む。
「そんなに固まらなくても」
七都は言ったが、セレウスは声を落とす。
「恐ろしいです。私は、とても中には入れない」
「ナイジェルが? あなたと同じくらいの歳の、ちょっときれいな男の子なんだけど」
「魔神族の方の年齢は、見た目と中身が一致するとは限りません。特に魔王さまは……」
「ユードによると、ナイジェルは魔王になったばかりみたいだけどね。そういえば彼、なんとなく性格、あなたに似てるよ」
言ってしまってから、七都は後悔する。セレウスが、さらに頬をこわばらせたからだ。
確かにアヌヴィムの魔法使いとはいえ、魔王に性格が似ているなどと言われたら、固まるしかないのかもしれない。
「そ、その、どこかさめてて、でも、子供っぽくて、いたずら小僧的なところが」
七都は付け加えたが、セレウスの表情は、ますます硬直するばかりだった。
「じゃあ、いろいろありがとう。あなたたちに出会えなければ、私は相当困っていたと思う。出会えて、本当によかった」
七都は、二人に言った。彼らは頭を下げる。
「さようなら、ナナトさま。またお会いできますように。これからは、カトゥースのお茶と花は、毎日取り替えます。掃除も、出来るだけこまめにやります」
「無理しなくていいよ、セレウス」
「いえ。やはり、手抜きはいけませんから」
「そう? じゃあ、よろしくお願いしますね」
「ごきげんよう、魔神さま。絶対、またお屋敷に来てくださいね」
セージが、言葉に力を込めて言った。
七都は、頷く。
そして七都は、猫たちの彫像の間を通り抜け、闇の空間へ入った。
かつて魔王の神殿として使われていたという、地下の広間へ。
そして今は、ナイジェル――魔王シルヴェリスが眠っているその広間へ、再び戻る――。
セレウスとセージは、七都の姿が闇の中に消えても、突っ立ったまま、いつまでもその入り口を眺めていた。
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