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扉の向こうは静かだった。
会話が行われている様子は、全くない。
それでも七都は、扉を背にして、二人の話とやらが終わるのを待った。
やがて扉が開き、七都はそこから飛びのいた。
ナイジェルが、にこやかに扉から出て来る。
闇色の針のような瞳は、元に戻っていた。
手には、ガラスコップが握られている。七都の涙の石が入っているコップだった。
そして、カトゥースが入った陶製の容器を彼は肩にかけていた。
ナイジェルの後ろから、カトゥースの花の袋を抱えたナチグロが、暗い顔をして歩いてくる。
二人の背後には、カトゥースがきれいに並べられた石の台が見えた。
ナイジェルがしたのか、ナチグロがしたのか、そして、それらが魔力を使って並べられたのかは、わからなかった。
「さ、ナナト、ここから出立するよ。闇はもう十分に深くなった。君は君の飼い猫と一緒に、扉を通り抜けて、自分の世界に帰りなさい。僕も自分の領域に戻る」
ナイジェルは、コップを七都に渡した。
「これは、持って帰らないといけないよ」
「ありがとう」
七都は、コップを受け取った。
コップの表面に、透明な膜が張られているのがわかる。セレウスの館に張られていた魔法のバリヤーとよく似ていた。コップを逆さまにしても、七都の涙のビーズはこぼれ出ない。
「蓋をしてくれたの?」
「一応ね。こぼれないように。蓋は、この世界内でだけ有効だよ。カトゥースのお茶と花は、半分はここに置いていく。ここに避難してくるかもしれない魔神族のために。残りの半分は、僕がもらっていこう。品質も、とても優れていそうだから」
「うん。それがいいと思う。カトゥースを作った人も、喜ぶよ」
七都は同意して、コップを制服のスカートのポケットにしまった。
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