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第1章 リビングの不思議なドア
その奇妙なドアは、リビングの壁のちょうど真ん中あたりにあった。
家にある他のドアは全部白か茶色のシックな色なのに、そのドアだけ薄い緑色に塗られている。クールできれいな白緑色、アイスグリーンに。
ドアは、別の部屋に通じているわけでも、奥が物置になっているわけでもなかった。
それを開けると、無機的なコンクリートの壁にたちまちぶち当たる。ドアの向こう側には何もないのだ。
なぜそんなところに意味不明のドアがあるのか。
七都は、子供の頃から時々その緑のドアを開けてみるのだが、そこにはいつもコンクリートの冷たい灰色が、妖怪ぬりかべのように立ちはだかっているだけだった。
「あそこからは、お化けが出てくるんだよ~」
七都が幼い頃、父の央人はそう言って、七都を怖がらせた。
そのうち、ブラックホールになっていて吸い込まれるとか、四次元の世界とつながっているとか、挙句の果てには、実は猫を頭に乗せた死体が塗り込められているんだ、などと言い出す始末。
七都が聞くたびにはぐらかし、答える内容もまるっきり違っている。
どうやら父は、そのドアに関しては、まともに説明してくれる気はなさそうだ。
けれども、一度だけ――。
「あのドアのことは、七都がもう少し大きくなったら、ちゃんと話してあげるからね」
七都が小学生のとき、いつもよりしつこく問い詰めると、央人は真面目な顔をして、そう言ったことがある。
遠くを見つめるような、どこか寂しげな父の目を間近で見て、七都は素直に頷いた。
たぶん、もうちょっと大きくなるまで聞いてはいけないことなんだ。そう思いながら。
あれから随分たって七都は高校生になったが、央人にはドアのことを話してくれそうな気配は、まだ感じられない。
七都は、もっともっと大きくならなければならないのかもしれない。
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