After That

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「平井」 「……うぅ。恥ずかしいので、しばらく放っておいてください」 「嫌だ」 「え?」  驚いて顔を上げた瞬間、温かい吐息を感じた。  唇が触れるやんわりとした感覚。ほんの一瞬だったけれど、その一瞬だけ時が止まり、桜の木と先輩の傘に覆われ、この世界には私たち二人しかいないような錯覚に陥る。 「ごめん、少し濡れたな」  藤沢先輩の声がして、現実に引き戻される。  傘が傾いたせいで、私の肩が少し濡れていた。でも、藤沢先輩の肩なんて、とうの昔に濡れている。 「先輩も濡れてます。風邪ひいちゃいますよ」 「これくらいでひかない」  口調は素っ気ないけれど、その声はとても優しくて。そして顔を背けているけれど、先輩の耳は赤く染まっている。 「……帰ろう」 「はい!」  そして、私たちはまた駅に向かって歩き出す。  雨の音が響く傘の中。その音を聞きながら、思う。  止まない雨はない。  雨雲の向こうには、いつだって明るい太陽が待っているのだから。  あの日、泣きながら雨に濡れた帰り道。けれど、今は──。  藤沢先輩と一緒なら、どんな雨だって越えていける。  私は先輩の横顔を見上げ、声に出さずに囁いた。  ──藤沢先輩、大好きです。 ■藤沢先輩はいつも不機嫌 了
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