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「冗談……とかじゃないですよね?」
「冗談でこんなこと言えるか!」
即座にツッコまれる。うん、そうか、冗談じゃないのか。……冗談じゃない!?
「先輩? あの……」
先輩はやっぱり見ていたんだと思った。一瞬だけれども、触れてしまった唇。
今思い出しても嫌だし、悔しい。藤沢先輩に見られていたことが、悲しいとも思う。
でも。
「私も、すごく嫌でした。だから、先輩が殴るほど怒ってくれて嬉しかった」
「……」
私は先輩の赤いネクタイをきゅっと掴む。かつては、私が毎日身につけていたネクタイ。
──勇気を、ください。
「上書きしてください。……先輩だけを覚えていたい」
そう言うと、先輩が驚いた顔で息を呑み、そして深く息を吐いた。
「拒否られたらどうしようかと思った」
「きょ、拒否る訳ないじゃないですか!」
あ! 本心ダダ洩れだ!
そう思っても遅い。私は赤くなった顔を隠そうと俯く。
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