追憶(Side:M)

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『あのな……あれは普段は着ないんだよ』 『でも、着たいもん』 『それだけでバレエがやりたいって言ったんだとしたら、おばさんもダメだって言うだろ』 『でも……栞、お姫様みたいに可愛くなりたいんだもん……』  そう言って、悲しげに瞳を潤ませる栞を見ていると、なんだかんだとほだされてしまう。そして、ガラにもなく言ってしまうのだ。 『栞はあんな衣装着なくても、可愛いから』 『……ホント?』 『何回も言わせるな』  つい言葉がぶっきらぼうになるのだが、栞は少しずつ表情をほころばせ、最後にはまるで太陽のような笑顔を見せた。  そんな栞の性格は、中学に上がってからも相変わらずだった。  栞の話をすると、母親はいつも「やっぱり女の子ね」と言っていたが、そういうことなのだろう。……あまりよく理解できなかったが。  ただ、理解はできなくとも、自分とは全く違う考え方をする栞といると楽しかったし、一生懸命話をする栞を可愛いと思っていた。  そして、何の根拠もないまま、栞はずっと側にいるのだろうと思っていた。  それなのに──。
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