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「さっきも話したように、僕、宇宙にも行くし、ドラゴンとかにも会うんです。そしたら、その絵がいつなくなっちゃうかわからないじゃないですか。それは悲しいです」
「……確かにな」
「だから、それは貴方が持っておいてください。せっかくだし、僕のサインも書いておきますよ」
「サインとか、子供が生意気な」
空いている左手で子どもの頭を軽く抑え込むようにするとキャッキャッとじゃれるような声を出して、嬉しそうにしていた。鉛筆を渡すと子供はすらすらと迷うことなく、何かを書いた。そして、少年へとそれを返す。
「せっかくなので、貴方の名前も教えてくれませんか?」
「ん? ああ。阿部創。それが俺の名前」
「あべつくる、ですね。覚えました」
しっかりと頷いた子供に少年は笑いかけた。自分の絵を見て、純粋に喜んでくれる。これが、自分が本当に成したかったことなのではないか。別に大会で賞を取るとか、そういうことで気負いをする必要はなかったのだ。ただ、自分の絵で誰かの気持ちを変えられたらよかったのだ。
それを思い出させてくれた子供は、もしかしたら自分に自覚はないのかもしれない。でも、そのおかげで自分は先へと進める気がした。
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