六時限の空き教室

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 この子供だったら、どこかで理解してくれるんじゃないかとか、変な期待を抱いてしまっている。 「いくら、取り組んでも全く上手くいかないんだ。そうするうちにもう、時間が無くなっていた。結局出来上がったのは最低なものだったよ。何が表したいのか全くわからない。もう、真っ黒だった。真っ黒なキャンバスが、俺に訴えてくるんだ。俺には絵を描くことでしか認められないのに、それが出来なくなった……誰にでも描ける黒に染め上げるだけの作業しか出来なくなった俺を誰が見てくれるのかって。いないよ。そんなの誰もいない」 「…………」 「夜、目を閉じるとそこは真っ黒なんだ。まるで、あのキャンバスみたいに。それから、もう寝れなくなった。寝ても、悪夢ばっかりだ。この時間は、六時間目はいつも絵を描く時間だったんだ。だから、起きるのが辛くて。時間なのに、絵を描けない俺が嫌で、そんな自分から逃げるために俺は、ここを自分の楽園にした」  口にしてしまえばなんてことない話だ。ただ絵を描くことがトラウマで、それから逃げているだけの臆病者。それが自分の全てだ。  子供は理解しているのかしてないのかわからないが、表情を変えることなく少年をただ見つめている。  机に腰掛け少年を見つめる子供と敷布団の上で上半身だけを起こしてぐったりとしている少年。その姿はまるで神に救いでも求めているかのような構図だった。  自分だけの楽園を邪魔しに来たはずの子供が、実は自分を助けるためにきた神ではないかと、神を信仰したことなどないのにそう思ってしまった。  長い沈黙がそこに流れる。少年も子供も口を開かない。懺悔を終えた迷える子羊は、ただただ待つことしかできないのだ。 「なら、僕のことを描いてくださいよ」
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