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職場へ向かう車中、ケンジの腕時計に電話の着信があった。 あのメッセージカードのお相手ミキの映像が空中に浮かび上がる。 「こんちわー、今仕事中?」 「いや、ちょうど今 移動中。弁当買ってきた」 デパートの件にはふれずあいまいな返事をした。サプライズをミキに知られてはマズいのだ。 「残業続きじゃない、ずーとそんな感じなの?」 「半年ぐらいかな、そっちはどうだい?」 「こっちは徹夜で荷造り中よ」 「ははは、どんだけ荷物持って行くんだよ」 ミキが海外に行く予定であることは既に知っていた。 スーツケースにぎゅうぎゅうに衣類を押しこめている姿を想像してケンジは笑いをこらえきれなかった。 「どんだけって、段ボール10箱以上よ!!」 「だだ、段ボール?? 10箱?」 いくらなんでも旅行に持って行く荷物の量ではない。 「3年間ほぼ海の上だからねー。研究の道具もたくさんあるし」 「あ!?  ああ・・・そうだったな。そうだそうだ。  え、えーーーーと、  いつだったっけ出発は?」 「明日の午後3時のフライトよ。  ほんとはケンジにも挨拶に行こうと思ってたんだけどね。  お世話になってる教授とか上から順番に回ってたら時間なくなっちゃって。  ごめんねー!」 「あ、うん・・ ぜんぜんOK。  見送り、行けたらいくよ」 「あはは、  仕事忙しいんでしょ。わざわざ来なくていいよ」 ミキは海洋生物の研究者だ。船で海に出ることも多かったが、せいぜい日本近海で1週間がいいところであった。 前にいっしょに飲んだときに海外に行く話を聞かされていたが、てっきり旅行に行くのだと思っていた。 まさか3年間合えなくなるとは! しかも出発は明日だ。 電話を切った後は、さっそくコマチの出番である。 <<ミキさんとしばらく会えなくなりますね。  明日空港に見送りに行く予定をセットします>> [[よっしゃ! 130km/hで飛ばしてくぞ!]] <<ファントム、一般道でそんな速度を出せる道はない。緊急車両でも80km/hが上限だ。  速度指定のない高速道路でも100km/hまで・・・>> [[わーってるよそんなの! コーナーを制限速度いっぱいで攻めてやる!]] <<危険運転は避けなければならない。ちゃんと間に合うような時間に出発すればいい。  職場を13時に出発すれば14時に空港に着く>> [[けっ、つまんねーな]] ケンジはAI同士の掛け合いを聞きながら、買ったばかりの小さい紙袋を見つめていた。
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