一段目。-密会side-

21/101
228人が本棚に入れています
本棚に追加
/218ページ
《2》止まらぬ想い。 「烈火!! 馬鹿なのか、お前は!?」 開口一番、烏丸脩司(からすましゅうじ)は、頭ごなしに俺を怒鳴り付けた。普段は無口で穏やかな男が、これまで見た事も無い程、激怒している。 脩司は、《火の星》の東天を預かる武闘派の四天だ。『三度の飯より筋トレが好き』という変人で、見た目も武骨だが中身も粗野だ。 年齢33歳。 《火の星》の四天衆の中では最年長で、性格的にも真面目な男だ。頭が硬いし、反論すれば正論でやり込められる。空気が読めない事も多いが、基本的に優しい奴で、滅多に怒りを表さない。 そいつが、頭から煙を出して激怒しているのだ。それ程の事を、俺はやらかしてしまったのである。 怒れる脩司は、山門の仁王像そのものだった。太い眉毛を不機嫌に寄り合わせ、眉間に深い皺を刻んでいる。そうして、太い腕を高く(こまね)いて言った。 「一体どういうつもりなんだ、お前は?! 法要中だぞ?集中力が足りないんじゃないのか!?」 地の底から響く様な重低音の声と、鬼の様な形相が、俺を威圧する。いちいちお説の通りなので、俺はしゅんと肩を窄める。 脩司の説教は、続いた。 「お前、最近、弛んでいるぞ!折角、首座さまが御光臨下さったというのに、無様な姿晒しやがって!──いい面の皮だ!!」 「………」 返す言葉も無い。 幸い、軽い火傷で済んだし、火も直ぐに伏せられたが…先代から受け継いだ僧衣と袈裟は、台無しになってしまった。 …親父の…形見だったのに。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!