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春まだ浅い甲本邸は、溶け残った雪が敷地の其処彼処に小山を築いていた。
薙は、何処に行ったのだろう?
何となくではあるが、邸内には居ない様に感じた。天解の術を使わなくても解る。
『此処』ではない『何処か』──独りきりになれる場所で、薙は、この春霞の空を見上げている。そんな気がして、俺は外に出た。
母屋の裏庭から、広大な日本庭園へと足を向ければ、そこは静寂の世界である。護法達が、とうに探し尽くしたのか、人っ子一人見当たらない。
ふと見上げた空に、天女の羽衣の様な薄雲が、幾重も棚引いていた。
青空に白く発光する球体は、昼の満月か…
ピィピィと喧しく騒ぎ立てる雲雀が、円を描いて天高く上って行く。
長閑だ……。
何もかも忘れて、のんびり散歩などしたくなる。
手入れの行き届いた庭園は、細やかな春の兆しに溢れていた。風情ある梅の枝先には、綻び掛けた蕾がソワソワと開花の時を待っている。
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