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──二人で屋敷に戻った途端、薙は巳美にこっぴどく叱られた。
相変わらず…巳美は薙に手厳しい。
首座を頭ごなしに叱り付ける護法なんて、多分、巳美ぐらいだろう。
謝り続けて漸く赦して貰った薙は、わたわたと支度部屋に向かったが──その去り際。ふと振り向いて、肩越しに小さくウィンクを投げて来た。
薙…そういうところだぞ、お前。
男心というものが、まるで解っちゃいない。
高鳴る胸を押さえつつ、片手を挙げて応えたが…その様子を、珠里が柱の陰から覗き見ていたとは、全く気付きもしない俺であった。
午前10時───
春季彼岸会の法要が、盛大に荘厳に執り行われた。参座席の一番前に着座した俺達当主が、導師に併せて観音経を挙げる。
薙は、見事な集中力で祈念を高め、有縁無縁の精霊達を供養していく。
堂内に響き渡る、読経の大音声。
参集した法縁達の祈りを束ね、如来の懐へと導く薙の相は、慈悲の菩薩そのものだった。
……なんだ。
結局、上手くやれるんじゃねぇか。
堂々たる首座の貫禄を見せ付ける薙に、器の違いを感じて、俺はまた少し寂しくなった。
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