233人が本棚に入れています
本棚に追加
最後に、一番目障りな《水の星》の当主──姫宮蒼摩が退席した。その際、ほんの一瞬だけ目が合ったが…蒼摩は、俺に軽く会釈をしただけで、互いに言葉を交わす事はなかった。
火邑家に対抗意識を燃やす姫宮家には、俺としても複雑な想いがある。火と水の相性が悪いのは、昔からの事だ。これには、六星一座特有の決まり事が関係している。
万が一、《金の星》が首座を立てられない時の為に…六星一座には、代々、首座の継承順位が設けられているのだ。
火、水、土、風、木の順で、一座の格式番付が定められている。姫宮家は、火邑家に次いで、三番目に首座の継承権を持つ一族だ。
《水の星》の北天・水嶌浬は、姫宮家が火邑家より格下とされている事に、常から不満を抱いている。いつか、この不文律を覆そうと、虎視眈々と機会を狙っていた。
…浬は、自分が溺愛する姫宮蒼摩こそ、五家の当主の中で最も優れていると信じているのだ。
確かに、蒼摩は優秀だ。
奴に比べたら、俺など、親の七光で当主になった、薄っぺらな行者に見えるのかも知れない。
…まぁ。その見解は、概ね当たっている。
一方で。浬の歪んだ評価を、キッパリ否定出来ない俺自身も、ちょっとどうかと思ってはいるが。
最初のコメントを投稿しよう!