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「──それでは首座さま。僕は、これで。」
暇乞いをする蒼摩に、薙は寂しげな顔で言った。
「もう帰っちゃうの? もっとゆっくりして行けば良いのに…」
「首座さま──」
引き留める健気な眼差しに、蒼摩が苦笑する。
悔しいが、誰が見ても、お似合いの二人だ。
鉄面皮で知られる姫宮蒼摩だが……恐らく、奴も薙に惹かれる一人だろう。薙に注ぐ眼差しを見れば、一目瞭然だ。
『人間関係が煩わしい』等と広言して憚らない蒼摩が、あんなにも優しい笑みを浮かべている。これまで、ただの一度も見せた事の無い表情だ。
せめて、あの半分でも、俺の容貌に繊細さがあれば…少しは状況が変わっていただろうか?
やがて蒼摩は、見惚れる様な微笑を投げて広い座敷を後にした。ぼんやり見送った視界の端に、水の北天──水嶌浬の横顔が映る。一瞬、目が合ったが、奴は澄まし顔で会釈を投げ、退出した。
スマートで上品──それが、《水の星》姫宮家の特徴だ。
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