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薙は、動揺も露わに俺を見上げた。
「烈火、ボクは──」
「解ってる。俺に気を使わなくて良いよ。駄目なら駄目で構わない。今ここで、きっぱり俺を振ってくれ。」
すると、薙の瞳が大きく潤んだ。
梅の花の様な紅い唇をキツく噛み締め、小さく首を横に振っている。薙の答えは明白だったが、俺には『答え』が必要だった。
「頼む、薙。今、ちゃんと振られておかないと、俺はいつまでも先に進めない。引導を渡すと思って…ちゃんと言葉にしてくれ。」
「烈火…」
一瞬の沈黙の後── 躊躇っていた薙の視線が、俄に金色の光を帯びた。そして…
「ボクは、烈火が『好き』だよ。だけどそれは、烈火が期待している『好き』とは…多分違う。」
「あぁ。」
「ごめん、その気持ちには応えられない。」
「そっか…解った。」
その時。 強い風が再び、薙の短い髪を揺らした。水面に映った俺達の影が、 波立つ風に掻き消される。
──そうして。俺の短かった春の夢は終わった。
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