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《鋼の行者》の異名を持つ一慶こと甲本一慶は、《金の星》の北天だ。強い行神力を備えた武闘派の僧侶で、首座の懐刀でもある。
俺にとって、奴は強力なライバルだった。
同じ体術師範であるにも関わらず、俺は未だ、この男に一度も勝った事が無い。
その上、何をやらせても卒無くこなし、機転も効いて頭も良いときている。今のところ、全く勝ち目が無い。
加えて、この容姿である。
男の俺が見ても、惚れ惚れする様な美形だ。
コンプレックスを刺激されるばかりで、全く面白くも無い相手である。
「戻れ、薙。親父が探している。」
──そう言うと。
一慶は橋の対岸から、大股に近付いて来て続けた。
「来賓方が、お帰りになるそうだ。首座であるお前が、直接見送りをしろと言っている。」
「お客様が?解った、すぐ行く。」
物静かな声に促されて、薙は前に一歩踏み出した。立ち去ろうとして──ふと俺を振り返る。俺は、懸命に笑顔を作って言った。
「行けよ。待たせちゃマズいだろ?」
「…烈火…」
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