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上手く笑えたか否かは、解らない。
薙の申し訳なさそうな眼差しに、 俺は目一杯の虚勢を張ってみせる。
「ありがとな。キッパリ言ってくれて、スッキリしたわ。付き合わせて悪かった。」
「……。」
「俺は紅蓮だ。《火の星》の当主として、絶対にお前を護ると誓った。何があっても、その気持ちに変わりはない。だから心配すんな!」
そう言うと──。
薙は漸く、いつもの愛らしい微笑みを見せた。その笑顔に絆される様に、自然と口角の端が持ち上がる。
「俺も帰るわ。またな、薙。」
「…うん。またね、烈火。」
短い挨拶を残して、薙は俺の前を走り去った。
一言二言、薙と会話を交わした後で、一慶が肩越しに俺を振り返る。
何をか訴える様な眼差しだった。
僅かに眇められた形良い瞳が、言葉より雄弁に語り掛けて来る。
暫しの沈黙──そして。
不意に踵を返すや、一慶は、そっと薙の背を押して立ち去った。
恐らく。
今の一瞬で、あの男は全てを察したのだろう。
振られた俺に、慰めの言葉も、余計な気遣いも無く、颯爽とその場を離れてゆく。本当に…腹が立つほど好い男だ。
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