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「…烈火さん。私、家に帰りますね?」
先に沈黙を破ったのは、珠里の方だった。
「帰る──?」
「はい。今の私じゃ、お側に居ても、 あまりお役に立てませんから。」
珠里は、 顔をくしゃくしゃにして笑って見せた。
無理に作った笑顔。
涙で潤む瞳。
珠里も自分なりに考え抜いて出した結論なのだろう。 俺が引き留める権利はない──だけど。
「珠里。俺に少し時間をくれるか?」
「時間、ですか?」
「あぁ。お前との事、ちゃんと考えてみようと思う。でも今直ぐには無理だ。正直、そんな余裕が無い。」
「──はい。」
俯く珠里が、 刹那、薙の辛そうな姿とダブって見える。
──『その気持ちには応えられない』
そう言った薙の言葉が、 今更ながら重く胸にのし掛かってきた。
覚悟はしていたつもりだったが、いざそれが現実になると、思いの外ダメージはデカくて…今は、現実を受入れる事すらままならない。一方で、見込みが無いと解った以上、 この想いはキッパリ切り捨てなければならないのも解っていた。
抉り取った心の欠片が、 生傷の様にズキズキと痛む。
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